「社会保険には入っていません。雇用契約書を交わしたこともない。なんちゃって社員ですね」
都内のキャバクラで働く34歳の池田雅司さんは、こう語る。出勤は仕事が始まる1時間前で、仕事が終わるのは午前3時。月の休みは6日と、なかなかハードな働きぶりだ。
とはいえこれまで高卒でフリーターや派遣として働いていたころと年収の差は歴然で、現在は月に30万円以上を稼いでいる。こうした「生活が成り立たない」というほどではないものの、非常にハードで心身をすり減らす「限界労働者」ともいうべき人は、日本の社会問題と言っても良いだろう。
格差社会が生み出したともいえる限界労働者たちを追った増田明利氏による書籍『限界労働者 格差社会にあえぐ22人の生活』(彩図社)から一部抜粋して、池田さんの日常をお届けする。なお、登場人物のプライバシー保護のため、氏名は仮名としている。(全2回の1回目/続きを読む)
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キャバクラ勤めはお金のため「もう貧乏をするのは心底嫌」
「キャバクラで働くようになったのは29歳のときだから、もう5年になります。やっていて楽しくはないし面白くもない、だけど他に行くところがないから仕方ない。堅い仕事に就ければいいけど、可能性は低いですし」
池田さんは高校を卒業して今年で16年になるが、初めの5年はフリーター。その後は自動車、電機メーカーの期間工、更に製造業派遣、軽作業系の日雇い派遣などを転々とし、正社員という安定した立場で働いたことは一度もない。
「今は一応社員ということなんですが、社会保険には入っていません。雇用契約書を交わしたこともない。なんちゃって社員ですね」
高校を卒業したときにきちんと就職するなり、頑張って大学や専門学校に進学するなりしておけばよかったと思うが、時間が後戻りすることはないから諦めるしかない。キャバクラに来る直前は派遣で食品加工会社の工場で働いていたが、仕事が少なくなって派遣切りの憂き目に。寮からも追い出された。
「キャバクラで働いてみようかと思ったのは、お金のためです。当時のアルバイトの時給は1000円前後、良くて1100円で、月に20万円稼ぐのは大変です。高卒で職歴のない自分が30歳間近になってまともな会社に入れるわけないですから」
キャバクラは初任給27万円で、他手当あり、賞与支給というのは破格の条件。もう貧乏をするのは心底嫌だった。

