「こんなこと言っても無意味だけど、学生時代に戻って就職活動をやり直したい」

 34歳の早川昇介さんは、2013年に国立大学を卒業して当時東証一部に上場していた企業に就職。順調に社会人生活のスタートを切ったものの、転職を繰り返して現在は「ブラック度は結構高い」というガソリンスタンドで働く。現在の手取りは25万円ほどで「ギリギリというほどではないけど贅沢はできません」と早川さんは話す。

 いったいなぜ、彼はこれほどまでに転職を続けたのか。早川さんのような「生活が成り立たない」というほどではないものの、非常にハードな仕事ぶりで心身をすり減らす「限界労働者」ともいうべき人たちを追った増田明利氏による書籍『限界労働者 格差社会にあえぐ22人の生活』(彩図社)から一部抜粋して、お届けする。なお、登場人物のプライバシー保護のため、氏名は仮名としている。(全2回の1回目/続きを読む

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写真はイメージ ©graphica/イメージマート

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順調な社会人生活のスタートから一転……

「今の仕事は気楽です、あまり頭を使う仕事ではないから」

 早川さんは2か月前からガソリンスタンドのサービスマンとして働いているが、この仕事は大学卒業以来6か所目の職場、転職経験は5回になるという。

 13年に旧二期校の国立大学を卒業した早川さんの最初の職場は、東証一部上場のマンション開発・販売会社。自分でも順調な社会人スタートが切れたと満足していた。

早川さんのプロフィール(書籍より)

 営業マンとして自社開発物件のセールスに従事していた早川さんだが、運命の歯車が狂い始めたのは17年の年初頃から。供給過多から販売不振に陥り、暗転することになる。自己破産や民事再生法申請まで悪化したわけではないが、事業の再構築という名目で人減らしが実施されたのだ。表向きは希望退職者の募集ということだったが、実情は半ば指名解雇に近いもの。

「営業部門は販売実績の低い者が狙われました。残念ながらわたしは足切りの対象になってしまって」

 残ってもいいことはない。君のように若くて国立大学出身の人材なら引く手あまただろ。こんなことを言われ、自発的に退職してほしいと懇願されたそうだ。

「非上場だけど業界内では知名度のある開発販売会社が倒産するとか、同業他社に救済合併されるということも起きたので、退職金の割増しがあるうちに辞めた方が得策だと思ったんです」