「病院に行くこともままならないし、まともに飯を食う時間もない」

 都内のキャバクラで働く34歳の池田雅司さんは、こう語る。出勤は仕事が始まる1時間前で、仕事が終わるのは午前3時。月の休みは6日と、なかなかハードな働きぶりだ。

 とはいえこれまで高卒でフリーターや派遣として働いていたころと年収の差は歴然で、現在は月に30万円以上を稼ぐ。こうした「生活が成り立たない」というほどではないものの、非常にハードで心身をすり減らす「限界労働者」ともいうべき人は、日本の社会問題と言っても良いだろう。

ADVERTISEMENT

 そんな池田さんの毎日の仕事のようすや生活事情について、限界労働者たちを追った増田明利氏による書籍『限界労働者 格差社会にあえぐ22人の生活』(彩図社)から一部抜粋して、お届けする。なお、登場人物のプライバシー保護のため、氏名は仮名としている。(全2回の2回目/最初から読む)

画像はイメージ ©graphica/イメージマート

◆◆◆

1日の自由時間はわずか3時間で「まともに飯を食う時間もない」 

 出勤したらまず開店前の掃除、次にお酒やタバコの発注、キャバ嬢の出勤管理などを終えるとティッシュ配り、チラシ配りに出されることも。

「営業が始まったらウェイターです。飲み物、食べ物のサーブ、灰皿の交換、わがままな客が要求した出前を取ったり、店にストックしていない銘柄のお酒やタバコを買いに行ったり。キャバ嬢がボーイを奴隷みたいに扱っているのと同じで、客もボーイやフロア係の人格は認めていないんだと思う」

池田さんのプロフィール(書籍より)

 店は0時で看板になるが、最後の客が出ていくのは30分後ぐらい。ここで女の子たちはお役御免で帰り支度を始めるが、ボーイ以下の男性従業員は後片付けと女の子を家に送り届ける仕事が残っている。

「片付けはゴミ出し、グラスや食器の洗浄、酒瓶の回収、トイレ掃除などです。本格的な全店清掃は翌日の開店前に男性スタッフ全員でやるけど。これがたっぷり1時間」

 送りはワゴン車に分乗しているが、1台に5人乗せて1時間半はかかる。最後の子を送って店に戻る頃には2時を回っている。

「というわけで、すべて終わるのは毎日深夜3時近くですね。拘束11時間、実動10時間です」

 深夜3時では電車は止まっているし、タクシーもつかまらない。寮に入っているスタッフは店から徒歩10分ぐらいのところにある借り上げマンションに帰るが、池田さんは30分歩いて大塚のアパートに戻る。

「シャワーを浴びてコンビニ弁当を食べたら布団に直行、正午頃まで寝ています。自分の自由になるのは正午頃から3時ちょっとまでしかありません。体調が悪かったり歯が痛くなったりしても病院に行くこともままならないし、まともに飯を食う時間もない」