どこかに向けてアピールするわけでも目立とうとするわけでもない。自分と向き合い、今は何をするべきなのかを理解して、その努力を惜しまなければ、必ず結果は出る、誰かが見てくれている。中島選手はそんな当たり前であって当たり前になかなかならない事を信じさせてくれる。

 中島卓也選手が高卒10年目の今シーズン、また変わろうとしています。堅実な守備には、より磨きがかかりました。他の誰かが獲ればファインプレーに映るような打球も、中島選手のグラブにかかるといとも簡単にさばいているように見えてしまう。難しい球にも慌てない姿は貫禄すら感じます。

 さらに今年のファイターズはセカンドが定まりません。8月だけでも、杉谷選手・石井一成選手・横尾選手・渡邊選手・太田賢吾選手と5人の選手が日替わりで守備につきます。いろんな選手と二遊間を組まなければならないことで工夫も生まれ、そこから新しく身につくテクニックもあるはずです。

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 そして、バッティング。8月7日の札幌ドーム・イーグルス戦では2015年以来・プロ2度目の5打数5安打を記録しました。翌日の第一打席もヒットだったので、試合をまたいで6打席連続です。しかも様々な球種を右に左にセンター前に、まさに自由自在に打ち分ける姿に中島選手の今年の変化を見ました。

 中島選手が多くの野球ファンに知られるようになったきっかけは粘りのバッティング。主に左方向に飛ぶファウル、際どい球を悉くカットし続けるあの姿です。追い込まれてから粘って粘って粘って粘って、三振に終わってもそこまでに出来るだけの球数を投げさせる、相手ピッチャーにしてみれば相当なダメージです。札幌ドームのホームベンチは三塁側にあるので、中島選手のファウルがベンチ内に飛び込みチームメイトを襲うことも多々あります。ネクストバッターズサークル、三塁コーチャーズボックス、カメラマン席もいつ飛んでくるかとひやひやしています。

 でも、そのスタイルはチームの誇り。誰もが満足そうに中島選手の姿を見つめるのです。7月にルーキーの清宮選手が1軍にいた時、ベンチ内でグラブを構えながらひとつひとつの打球に目を輝かせていたのも印象的でした。

粘りのバッティングが持ち味の中島卓也 ©時事通信社

「タクメーター」誕生のきっかけ

 そのファウルをずっと数え続けている人がいます。その彼女は札幌ドームのスタンドで中島選手を見守り、ファウルを打つごとに丁寧に応援ボードの数字を変えていきます。自分だけが掲げる「タクメーター」の数字です。

 札幌に住むデザイン関係の仕事をする彼女は、聞けば元々野球にはそれほど興味はなく、誘われて出かけた2016年4月の札幌ドームの試合でせっかくだから何かグッズをと購入したのが中島選手の応援タオル。「顔がシュッとしてる」、そんな理由からでした。

 しかしそこから彼女はハマっていきます。まずはルールを覚える、スコアシートを付けるようになる、過去の記事を読みあさる、中島選手が気になって気になって仕方なくなる、粘りのバッティングが持ち味と知る、それを応援ボードにしたいと考える、どんな風にしようか、そうか、ライブ感のあるものにすればいいのではないか、よし、数字を入れ替えられるものにしよう! 思い立って朝からボードを作成してその日の夜の札幌ドームへ。特徴ある応援ボードはすぐにテレビカメラに捉えられ、その中継の解説だったOB・岩本勉さんによって「タクメーター」と命名されるのです。

 ファウル数は試合結果だけを見ても出ていないので、試合をおいかける必要があります。生で観戦できない日は、速報サイトやメディアの中継をチェックしてスコアシートに記録。ここまででも大変なことなのに、彼女にはその先がありました。毎試合その数字をオリジナルのエクセルデータに落とし込み分析を重ねているのです。全体のファウル数、2ストライク以降のファウル数、試合で相手投手に投げさせた球数をデータにして月間、年間でまとめているのです。

大切なエクセルデータ ©斉藤こずゑ

「最初は12球団トップの数字ということだけで興味でカウントしてました。でもいろいろと知っていくうちに、わかりやすい指針である打点や打率ではないところでもきっと深い数字の意味があるはず。中島選手のいいところにもっと気づきたいと思いました」

 応援ボードは3年目の今年は改良されて折り畳み式になりました。リュックに収まるコンパクトさもポイント。

折り畳み式になった「タクメーター」 ©斉藤こずゑ