ジェンダー・ギャップは解消されるのか?

 カナダでも状況は厳しい。2013年の調査によれば、具合が悪くなった当日か翌日に近隣のクリニックで予約を取れたと答えた人々は全体の41%にすぎなかった。2022年の別の調査では、クリニックから紹介された専門医に診てもらい治療を始めるまでにかかった時間は平均27・4週間、脳外科の治療を受ける場合は平均58・9週間、つまり1年以上だ。アルバータ州ではMRI検査を受けるだけでも半年以上待たされる。カナダは総じて実際に治療に至るまでのプロセスが長く、不安を感じるという移住者たちの声もある。

 第3章では、ジェンダー的要因が女性の海外移住の一つの要素となっていることを論じた。だが、海外に行けばジェンダー不平等が全くなくなるというわけではない。世界146ヵ国の経済、政治、教育、健康の四分野における男女のギャップを計測した結果をまとめた世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ報告書も、完全に男女平等という国は、まだどこにもないことを示している。

graphica/イメージマート

 ジェンダー・ギャップ・ランキングで先進国として最下位、2025年は148ヵ国中125位(注:本書では2023年のデータを記載)だった日本にいるよりも、もっと上位の国に移住したいと考える女性たちがいることは理解できる。ただ、外国人として海外で仕事を見つけることは実際には簡単ではなく、移住先で日系企業に就職する女性移住者は多い。こうした職場では、「女性の置かれた立場は、日本にいたときとあまり変わらなかった」と言う人々もいた。

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根強く存在する「アジア系住民」への差別

 日系ではない現地企業で働いている女性たちのほとんどは、日本にいたときと比べて状況が改善したと答えていたが、人種差別や外国人差別に直面する人々もいる。米国、英国、カナダ、豪州を含む多くの国々で、アジア系住民に対する差別は根強くある。豪州における研究では、84%のアジア系住民が差別を受けたことがあると回答している。コロナ禍では特に状況が悪化した。米国では1万905件、カナダでは835件、豪州では541件の差別事件が報告されたが、これは氷山の一角と言われている。

 筆者による豪州の大学におけるアジア系教員を対象とした調査でも、58・6%が「移民であることが、仕事の上で負の影響を及ぼしている」と回答し、その回答は特に女性で高く67・9%にものぼった。移民であることと、女性であることで、キャリア・アップをすることが難しい状況が浮かび上がった。

 あるカナダ在住の女性移住者は、比較的ジェンダー平等が進んでいると思われる公的機関に勤めているが、男女差別はないものの、欧州系の白人であるか否かや、英語と並ぶ公用語であるフランス語が堪能か否かの点で、昇進面などで歴然とした差別があると述べていた。