“大成建設の天皇”と呼ばれた山内隆司前会長(79)は、安倍晋三元首相との縁が深く、他国との外交に同行する機会も多かった。ノンフィクション作家・森功氏のインタビューで、ロシアのプーチン大統領と顔を合わせたときのエピソードを語った。
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安倍晋三は2006年9月の第一次政権と12年12月にスタートした第二次政権を合わせると、8年8カ月の長きにわたり、首相の座にいた。憲政史上最長の総理大臣として君臨した裏では、数多くの経済人がその地位を支えている。なかでも前大成建設会長の山内隆司(79)は、安倍にとって最も頼りになる財界人の1人だった。
第二次政権で「地球儀を俯瞰する外交」と名付けて世界中を飛び回った安倍は、原子力発電所や鉄道、道路といったインフラの輸出を経済政策の柱に据えた。そこで日本の総合商社やゼネコンが重責を担う。大成の山内は政府の正式な外交ミッションで7回、ブラジルのリオ五輪閉幕式やトルコ・イスタンブールの海峡トンネル開通式といったイベントを含めると、実に11回も安倍に同行している。
「最初が2013年のロシアと中東の訪問でした。その後、ウラジーミル・プーチン大統領は日本の講道館や安倍首相の地元山口にやって来て私も会いました。なかでも極東のウラジオストクで会った2017年9月のことは、忘れられません」
山内本人がこう「第3回東方経済フォーラム」の記憶をたどる。安倍をはじめ外相の河野太郎や経産相の世耕弘成、国際協力銀行や丸紅、三井物産といった経営トップたちが招かれ、ロシアのプーチンだけでなく、外相のセルゲイ・ラブロフや韓国大統領の文在寅も出席した。
「プーチン大統領は首脳会談や国際会議にいつも遅れてやって来る。ウラジオストクのときも3時間待たされました。懇談会のあとは同じ会場での晩餐会でした。安倍首相は気遣ってくれ、私はプーチン大統領の隣の席に座りました。テーブルに着くと、ナイフとフォーク、皿がいっぱい並んでいる。どんなフルコースの料理が出てくるのか、『こりゃあ食べきれないな』などと考えていました。で、いざ食事が始まると、ボーイがプーチン大統領の目の前にあるフォークや皿を片付け始めるではないですか。わずかの食器しかなく、われわれとはまったく違う料理が運ばれてきました。私は下手な英語で『なぜ大統領だけ別メニューなのですか? お腹でも壊されたのですか』と尋ねてみました。すると、『私は自分の専用コックがつくった料理しか食べないんだ』と答えるではないですか」
