役作りで「太ってくれ」と言われ…

 映画『凶悪』(白石和彌監督、2013年)では、家庭を顧みない夫から義母の介護を押しつけられる主婦・洋子がその苦しみを爆発させるシーンがあり、相手役の山田孝之は彼女の凄まじい剣幕にたじろぐほどだったという。このときも池脇は役について夜ひとりで考えることが多く、《ふとした瞬間に“あれ、今私、洋子になったつもりで考えている”と気付くことがあって。それぐらい深く考えましたね》という(『OZ plus』2013年11月号)。

 30代に入ってさらに演技に脂が乗り、2013年には『凶悪』のほか『舟を編む』『潔く柔く』で報知映画賞の最優秀助演女優賞を受賞、翌2014年に公開された『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)でもアジア・フィルム・アワードの最優秀助演女優賞のほか国内の数々の映画賞に輝いた。

映画『そこのみにて光輝く』(2014年公開)

 このころより母親役を演じることも増えていく。『そこのみにて光輝く』と同じく呉美保監督の『きみはいい子』(2015年)で2児の母親役を演じるに際しては、プロデューサーから「太ってくれ」と言われて役作りしたという。その舞台挨拶では《そのとき別の現場でも撮影していたので、今太っていくとつながりがおかしくなると言ったら、『そんなの関係ない』って。前の現場では、衣装がだんだんきつくなってくるのをごまかしながら撮影を進めていました》と明かしている(「MOVIE WALKER PRESS」2015年7月11日配信)。

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多彩な母親像を演じ分ける

「同じような役は一つとしてない」と語るとおり、母親役も一つひとつ違う。キネマ旬報ベスト・テンの助演女優賞を受賞した『半世界』(阪本順治監督、2019年)では、山林と海に挟まれた小さな町で、稲垣吾郎演じる夫の紘と製炭所を営みながら、中学生の一人息子・明を何とか高校に行かせようと奮起する母・初乃を演じた。

2018年10月、第31回東京国際映画祭のレッドカーペットに登場した池脇千鶴 ©時事通信社

 誰よりも息子のことを愛する初乃だが、全編を通して観ると、夫の紘のことも同じぐらい愛していることがうかがえる。明があることで初乃に怒って家出してしまった晩には、酒に酔って帰宅した紘にいきなり布団の上で抱きついたかと思うとキスをし、“女”の部分を垣間見せてドキッとさせる場面もあった。