あるいは『マイスモールランド』(川和田恵真監督、2022年)で演じたシングルマザーは、高校生の息子が自宅に連れてきたクルド人難民の少女とその弟を温かく迎え、一緒に食卓を囲む。このとき少女から、父親が入国管理局に収容され、難民申請も却下されたと聞かされ、母親が頭を抱え、何もしてあげることのできないふがいなさを謝る姿に、日本の大多数の人々の難民に対する態度や心情が表されていたようで胸に刺さった。

池脇千鶴(2020年撮影) ©AFLO

 同作もそうだが、近年の池脇は出番の少ない作品でも存在感を示している。『万引き家族』(是枝裕和監督、2018年)では後半、警官の役で登場し、取り調べのため安藤サクラ演じる女と対峙する場面が強い印象を残す。安藤の顔のアップが続くうえ、その圧巻の演技に並みの俳優なら完全に食われてしまうところだが、そこをがっぷり受け止めてみせたところに池脇の俳優としての力量を感じずにはいられない。

「どんな役でも入れられるように、ただの器でいたい」

 ドラマでは2021年放送の『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ系)で久々に主演を務めた。劇中、池脇演じる笛吹新は、結婚直前に恋人に逃げられたうえ、勤務先で左遷されてすっかり希望を失ったなかで40歳となる。だが、誕生日に街でたまたま見つけたバーで、見習いホステスとして働き始めたのをきっかけとして徐々に人生が変わっていく。ちょうど池脇自身も40歳を迎えようとしていた時期で、まさに等身大の役だった。

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『その女、ジルバ』の共演者は、バーのママを演じた草笛光子をはじめ、ホステス役も中尾ミエ、中田喜子、久本雅美とベテランぞろいだった。かつて朝ドラのヒロインを演じたとき、共演する先輩俳優たちに対し《お芝居自体からはそんなに感じることはなくて、そこからフッと抜けたときのその人のもつ器の大きさとか、気配りに感動するんです》と語っていた池脇だけに(『週刊朝日』2006年10月6日号)、このときもきっと多くの感動を抱き、この先の人生について学ぶことも多々あっただろう。

岡部たかし、池脇千鶴、髙石あかり、小日向文世(NHK『ばけばけ』公式Xより)

『ばけばけ』をきっかけにまた母親役が増えるのではないか。それは年齢からして仕方がないことなのかもしれない。しかし、かつて《どんな役でも入れられるように、ただの器でいたい》と話していた池脇のこと(『PHPスペシャル』2018年10月号)、もっといろんな役を演じてみたいはずだし、観る側もそれを期待したい。

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