「ある日、リビングのドアが突然ガチャッと開きました」
──ついに実家との関係を断ったのですね。
川口 でもある日、私がカウンターキッチンで料理をしていると、リビングのドアが突然ガチャッと開きました。顔を上げたら、福井にいるはずの母が立っていたんです。
──それは驚きますね。
川口 義理の家族とは二世帯住宅で、在宅時はお互いにカギをかけない習慣でした。なのでそのまま入ってきたのだと思います。母は私を見るなり「おまえ偉くなったもんやな」「せっかく育ててやったのにもう金は出せんて、よう言えるな」と、どんどん近づいてきました。
小さい頃から酔って当たり散らす姿は見慣れていましたが、そのときの母は強い“憎しみ”を感じさせる、見たことのない険しい表情でした。
──“憎しみ”ですか。
川口 「この人、こんなに怖い顔だったっけ?」と思う間もなく、母はまっすぐ私に向かってきました。その表情、言葉、雰囲気に殺気があふれて「ヤバい、本当に殺される」と思い、スマホで110番をしながらとっさに母を突き飛ばしました。
母はあっけなく倒れましたが、次の瞬間に私の視界が揺れ、頭に猛烈な痛みが走りました。母が私の髪をギュッとつかみ、床になぎ倒したんです。そして「おまえなんか産まんかったらよかった」「育てた意味なかったわ」と叫びながら、殴る蹴るの暴行を受けました。私は痛みと恐怖で何もできませんでした。
──母親はそのときも酔っていたのでは?
川口 母はシラフのようでした。それが余計怖さを増していました。手加減なく、はっきりと悪意を持って傷つけてきたからです。私はボコボコに殴られながら「あ、これは死ぬやつだ」と感じていました。物音を聞いた義母が駆けつけてくれなかったら、本当に殺されていた気がします。
──隣に住む義母に助けられたのですね。
川口 私と母は別室に引き離され、やっと少し落ち着きました。しばらくすると警察から5、6人駆け付けてきて、署で事情聴取を受けました。母が近づいてきたときにかけた110番がつながっていたようで、私は何も話せませんでしたが「怒声やもみ合う音を聞いて来た」とのことでした。
──警察はどんな対応だったのですか?
川口 私は当日の母の暴行だけでなく、幼い頃からの自宅軟禁や、小中学校に1日も通わないまま育ったことなども話しました。でも「事情は理解するが、あなたはもう20歳を越えた成人なので、お母さんが義務教育を受けさせなかったことは時効になる」と言われました。自宅軟禁も物的証拠がないので、母への処罰はナシとのことでした。
