「メイク・ア・ウィッシュ・ジャパン オブ ジャパン」(MAWJ)の初代事務局長として、約3000人の難病の子どもたちの夢を叶えてきた大野寿子さん。そんな大野さんは、2024年6月、肝内胆管がんにより「余命1カ月」を宣告される。
そんな大野さんの最期の日々に密着した感涙のノンフィクション『かなえびと 大野寿子が余命1カ月に懸けた夢』(文藝春秋)が好評発売中。
今回は本の中から、大野さんが元夫のギャンブルに悩まされ、借金地獄に陥る日々、そして子どもに嘘までつかせてしまったことを悔いる場面を一部抜粋して紹介する。
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不審を抱いたのは、結婚から2年になるころ
結婚した寿子を悩ませたのは夫勇三のギャンブルだった。寿子は言う。
「ばくちは何でもやります。日本では麻雀、パチンコ、競馬、外国に出張するとカジノでしたね」
寿子は当初はさほど深刻に考えていなかった。趣味として遊ぶ程度なら、目くじらをたてるほどでもないと思っていた。
「大変な事態になるとは想像できなかった。周りに賭け事で破滅した人なんていなかったし、依存症なんて聞いたこともなかったですから。世間知らずだったんですね」
最初に不審を抱いたのは、結婚から2年になるころである。寿子の祖母が亡くなり、約800万円を相続すると、夫から株を買いたいと言われた。
「私自身は株の知識は皆無です。だから、この人はきっと株に明るい人なんだろうと思った。お金を貯めてくれようとしているんだなと感謝していたほどです」
勇三から事後報告はなかった。寿子はてっきり、うまく運用してくれていると信じていた。
そして、勇三は欧州に出張した際、カジノで借金を作って帰国する。寿子が用意できるお金をかき集めると、ちょうど借金と同じ額だった。
「子どもがもらったお年玉まで足すとぴったり一致です。神様というのは計算が上手だなと思いました」
寿子が祖母からの相続について思いだしたのは、そのときである。
「ところであのとき買った株はどうなったの?」
「負けて、なくなった」
勇三は申し訳なさそうに肩を落とした。当然だろう。寿子の祖母が遺した財産である。
寿子はそのころを追想する。
「もう半泣きになっているんです。以前のいきいきした勇三さんじゃない。株は人を変えてしまうんです」
