『かなえびと 大野寿子が余命1カ月に懸けた夢』(文藝春秋)

「メイク・ア・ウィッシュ・ジャパン オブ ジャパン」(MAWJ)の初代事務局長として、約3000人の難病の子どもたちの夢を叶えてきた大野寿子さん。そんな大野さんは、2024年6月、肝内胆管がんにより「余命1カ月」を宣告される。

 そんな大野さんの最期の日々に密着した感涙のノンフィクション『かなえびと 大野寿子が余命1カ月に懸けた夢』(文藝春秋)が好評発売中。

 今回は本の中から、筋ジストロフィ―という難病に冒されながらも、必死になって夢を叶えた一人の少年のエピソードを抜粋して紹介する。

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覚醒していないと言われても、心はしっかり起きていた

 2024年元日には石川県・能登地方を中心に地震が発生した。寿子は自分に何ができるかを考えたようで、メールには私のコラムへの感想のほか、災害支援をしているNPOについての感想も記されていた。

 そして、1月の終わりには、こんなメールが入る。

〈1/26 吉村和馬くんが亡くなりました。

 昨年倒れて40分もの心肺停止状態から奇跡的に命を取り止め、2ヶ月後に医学的には覚醒していないけど自宅へ帰ることができました。

 それから7ヶ月、たくさんのヘルパーさんやボランティアさんに支えられながら、家族とまた吉村ファミリーを愛する友人たちとの時間を過ごしました。〉

 和馬は全身の筋肉が弱っていく難病と闘いながら、子どものころにMAWJの支援で夢をかなえた。寿子は長年、京都市内に暮らす家族と交流し、私にも時折、その様子を伝えてきた。その和馬が29年の生涯を閉じた。

〈覚醒していないと言われても呼べば目を開けるし、こっちを見るし、お風呂に入ればニコニコするし、笑うし、心はしっかり起きていたなと思います。

 会いたい人に会い、家族で仲間と過ごし、その7ヶ月は神様からの贈り物の時間でした。

 ジグソーパズルのピースが全部埋まり しっかりと和馬くんの人生が出来上がり、召されました。悲しいけどどこか清々しい。感謝でいっぱい。〉

吉村和馬さん(遺族提供)