決定戦で豊昇龍を破り、初優勝を遂げた安青錦=23日、福岡国際センター

 角界に新たな看板力士が誕生する。ウクライナ出身として初めて賜杯を抱き、大関昇進を確実にした安青錦。師匠の安治川親方(元関脇安美錦)の指導の下、日本や大相撲の文化をひたむきに学び、己や技を磨いてきた。出世の日々に迫った。

 ◇「帰りたい気持ちも」

 ロシアによる母国への軍事侵攻を受け、2022年4月に来日。関大相撲部の助けもあって稽古に励み、その後は安治川部屋に入門した。

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記者会見する安青錦=10月9日、東京都千代田区(EPA時事)

 プロ入り後、戦火が続くウクライナへ帰省はしていない。「帰りたい気持ちもある。友達と会いたい。子どもの時に行ったご飯屋さんとか。自分の街で散歩したい」。故郷はいつも心にある。

 初優勝を遂げ、ドイツに住む両親と電話で話した。涙を流して喜んでくれたという。自らの躍進が家族らの活力になることを一層、自覚できた。母国に関しては多くを語らないが、胸に秘めた思いは出世への意欲、角界で生き抜く覚悟につながっているだろう。

 ウクライナを離れ、「食事より日本語に苦労した。最初に来た時は(日本語の知識が)ゼロだった」と語る。部屋で過ごす中、周囲の会話を注意深く、根気強く聞いた。「勉強しなくても、何となく覚えた」との学び方で上達。今では流ちょうな日本語で報道陣を笑わせることもある。

 同じ欧州出身で、史上初の大関となった元琴欧洲の鳴戸親方は自身が「生きることに必死だった」という下積み時代の実感を込め、「置かれた状況の中で頑張るか、やめるか。必死さが違う」と振り返った。異文化の中で培われる外国出身力士特有のハングリー精神は通じる部分がある。

 「さらに上を目指している。これから」と安青錦。番付の最高位を見据え、再びウクライナに吉報を届ける決意だ。

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