かつて大相撲の世界をこれほど真正面から描いたドラマがあっただろうか。日本発のネットフリックス作品『サンクチュアリ―聖域―』が大旋風を巻き起こしている。非英語圏のテレビ部門でトップ10入りするなど世界中で人気を博しているのだ。確かに相撲は外国人の目には神秘的にも奇異にも映る魅力的な題材だ。しかし、力士の肉体や所作の美しさを再現するのは極めて難しい。俳優は体重を大幅に増やした上で厳しい稽古に励まなければならない。その間、他の仕事は受けられなくなる。これまで学生相撲や相撲部屋での人間ドラマに焦点をあてた作品はあったが、本格的にぶつかり稽古や激しい取組を俳優が演じることは不可能と思われていた。だが、本作はそんなこれまでの常識を打ち破っているのである。

 主人公は北九州に暮らすリーゼント頭の巨漢ヤンキー、小瀬清(四股名「猿桜」)。札付きのワルだが親思いの柔道青年が角界入りする物語だ。この設定は元大関、千代大海(現・九重親方)を彷彿とさせる。演じるのは元格闘家の俳優、一ノ瀬ワタル。作品ごとに徹底的に肉体改造に取り組んできた彼だが、

「本当、涙出るくらい稽古、キツかったんすよね……」

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 とメイキングで吐露する。準備期間を含めた約2年半は撮影というより稽古に明け暮れる日々だったという。毎日300回、四股を踏み、リアルな力士のカラダに仕上げた。

©佐々木健一

 寡黙な先輩力士・猿谷を演じるのは元力士の澤田賢澄。千代の国(九重部屋)の実兄だ。ちゃんこ屋を営みながらオーディションで役を勝ち取った。終盤では猿谷の断髪式が描かれる。膝を壊し引退する猿谷と澤田の実人生が重なって見え、思わずもらい泣きする。そう、本作はフィクションというよりまるでドキュメンタリーを見ているかのような感覚に度々包まれるのだ。

 本物の力士の肉体が物語に圧倒的な説得力を持たせる。唯一無二の本格相撲ドラマだ。

INFORMATION

『サンクチュアリ―聖域―』
https://www.netflix.com/jp/title/81144910