撮影=プレジデントオンライン編集部 ビデオインフォメーションセンター(VIC)の手塚一郎氏 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

80%くらいは失敗したかも

ハモニカ横丁は、吉祥寺駅北口からすぐ、戦後の闇市をルーツに多くの飲み屋がひしめき合っている。古びた建物に飲み屋がぎゅっと密集する細い路地は、「ハモニカ横丁」という名前がハーモニカの穴になぞらえて命名されたことに合点がいく。

もともとハモニカ横丁でビデオテープ店を営んでいた手塚氏は、1998年、その2階で焼鳥屋を始めたのを皮切りに、個性的な飲食店を多数出店。現在、VICはここでヤキトリ、ビアホール、ワインバーなど1飲食店11店舗と物販店1店舗を運営する。

横丁の最大の店子で、横丁に空き物件が出ると、真っ先に手塚氏に連絡がいくという。ここ数十年のハモニカ横丁の賑わいの仕掛け人は間違いなく手塚氏である。横丁の盛り上がりはそのまま街の活性化につながっている。

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とはいえ、順風満帆だったわけではない。最盛期には吉祥寺以外にも出店し40店舗を構えていた。ただ、すべてがうまくいったわけではない。

「今までたくさんの店を閉めてきましたよ。80%くらいは失敗したかな。そもそもの始まりは、自分が飲める店をつくりたいからという理由で、遊びの延長でビデオ屋の2階で焼鳥屋を始めた。儲けようと思って始めていない。遊びですね。だから面白かったし、続けられたのかな」

効率化はつまらない

ハモニカ横丁にあるVICの店舗は、どこも個性的な店構えだ。「ヤキトリてっちゃん」の壁一面には、手塚氏がアーティストに「いやらしい絵を」とリクエストして描かれたアートが。普通は椅子には使わないようなアクリル材のチェアが並ぶ。

そこには手塚氏の「飲食店は総合芸術」という哲学がある。空間や料理はもちろん、BGM、器一つ、選ぶにしても考え込む。

「店が作品である以上、オリジナリティがないのは面白くないし、お客さんに刺激を与えるようにしたい。

これはおじいさんの愚痴だけど、最近の居酒屋は表面的な店づくりが増えていますよね。例えば、いま蒸し物が流行りですが、そうしたブームが生まれたと思ったらみんな同じものを取り入れる。勉強せずに目先で儲けようとして、流行ったものをそれらしくつくる。それが効率的かもしれないが、均質化しているからつまらない。