『「あの戦争」は何だったのか』(辻田真佐憲 著)講談社現代新書

 保阪正康、半藤一利の系譜に連なる新進気鋭の近現代史研究者として、旺盛に活動している著者。2023年に本書と同じレーベルから刊行した『「戦前」の正体』も大きな反響を呼んだ。その続編として企画された本書だが、より論争的な時代区分であることが書名ひとつとっても伝わる。

「あの戦争」……第二次世界大戦における日本の軍事行動を、「大東亜戦争」「太平洋戦争」「アジア・太平洋戦争」など、どう呼称するかだけでも文脈が変わる。侵略か抵抗か。そもそも戦争の起点をどこに置くのか。始まりが変われば、「どうすれば戦争は避けられたのか?」という問いへの回答も異なってくる。そして戦争はいつ終わったのか。「戦後」はいつまで続くのか。全体の構図次第であらゆる議論が揺れ動く。そんな歴史のダイナミズムに、著者は豊富な資料や取材の成果を通じて果敢に挑む。

「企画の芯になったのは、著者が東条英機の“大東亜外交”の外遊ルートにあたる国をすべて回ったルポルタージュ。これは本書の第4章にあたる内容で、日本に植民地化されていた国々が歴史博物館などを通じて共有している国民の歴史を辿り歩いています。このパートに繋がるような形で、全体の構成を考えていただきました」(担当編集者の小林雅宏さん)

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 著者がその活動で一貫して問題視しているのは、歴史の専門家と一般読者の意識の乖離だ。対象範囲を絞り込んで精緻な議論を追求する学術の世界は、日常的なやりとりや歴史を扱った小説、ドラマなどを入り口に歴史に興味を持った一般読者の関心とはどうしても結びつきづらい。著者はあくまで在野の書き手として、そのギャップを埋めることに心を砕いている。

「各論ではなく、著者ならではの視点で戦争の全体像がまとめられていることが、読者の需要に応えたように感じています。著者は宣伝にも意欲的で、戦争関連本への関心が高まる8月に、地上波のテレビからネットの配信番組まで集中的に自らパブリシティ出演を行っています。これにより、従来の読者層以上に広い範囲、特に若い読者に届きました」(小林さん)

 YouTubeなどで歴史に興味を持つ子供も増えている。そんな子供と、親として対話する際のツールとしてのニーズも高いそうだ。

2025年7月発売。初版1万5000部。現在5刷10万9000部(電子含む)