昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

TVアニメ「BANANA FISH」が原作漫画を超えるとき

サブカルスナイパー・小石輝の「サバイバルのための教養」

2018/08/02

アッシュにとって、英二の跳躍が意味するもの

小石「アッシュはこの後、悪徳警官の罠にはまって逮捕され、病院の一室で英二と再会するんやけど、アニメ版のこのシーンがまたええんや。カメラはアッシュを捉える前に、あえて病室の窓越しに見える小鳥にフォーカスする。この小鳥の描き込みがえらくリアルで緻密なんで、観ている側は思わず見入ってしまう。そして、アッシュが英二の跳躍を思い出して『お前はいいな。あんな風にとべて』とぽつりと話す時に、小鳥たちが集団で飛んでいく。負傷して動けないアッシュと、自由に飛んでいく小鳥たちを画面上で対比することで、アッシュにとって英二の跳躍が『自由への憧れ』を体現していることを、はっきりと示しているわけや」

小鳥にフォーカス ※第2話より ©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH

「原作ではこの場面、割とあっさりした対話の描写ですよね。小鳥なんて出て来ないし」

小石「アニメは、小鳥という『暗喩』を画面に挿入することで、NYの底辺を這いずり回るアッシュには『英二のような〈翼〉は、自分には決して獲得できないだろう』という諦念があることを示している。だからこそ、次のシーンで英二がアッシュを説得することができず、涙を流して出てくることも、観ている側にすうっと納得できるわけ」

「なるほどねえ。原作では確かに、英二の涙が若干唐突に見えますもんね」

※第2話より ©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH

小石「こうした情感あふれる場面の一方で、アクションシーンも出色の出来やで。第1話でアッシュたちのたまり場に、敵対するオーサーらのグループが殴り込みをかけるんやけど、原作の『アッシュがカウンターテーブルの上に立って相手を蹴り上げる1コマ』の前に、『アッシュが複数の敵たちを流れるような動きでかわしつつ逆襲するカット』『前方に注意を向けながら後ろのカウンターに手をかけ、一挙動で飛び乗るカット』『前から迫って来る敵をアッシュの視界で捉えたカット』を挿入することで、原作の印象的な構図を活かしつつ、映像ならではの迫力を出してるんや」

「ちょっと、該当シーンをネット配信の動画で見てみましょうか……。20分20秒~30秒ぐらいのとこですね。なるほど、これだと原作の愛読者でも『あっ、あのシーンだ!』と納得できますね。背景をあまり描かず人物を浮き上がらせる原作のタッチもいいんだけど、背景も含め細かく描き込まれているアニメ版は、また違った楽しさがありますね」

アクションシーン ※第1話より ©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH

小石「銃器の描写も凝っている。1話の終盤、アッシュが英二とスキップを拉致した車を自分の拳銃で狙うシーン。アニメでは原作にはない『アッシュが親指で拳銃の撃鉄を起こすシーン』を追加している。アッシュが使用する回転式拳銃(S&W・M19)の場合、そのまま引き金を引くと『撃鉄を上げつつ銃の弾倉を回転させる動作』と『撃鉄を落とす動作』が続けさまに起こる(ダブルアクション)ため、命中精度がどうしても悪くなる。アッシュは遠距離の敵を狙うため、予め手動で撃鉄を起こして弾倉を回転させ、射撃時の銃のブレをできるだけ少なくしようとしている(シングルアクション)わけや。この描写から、アッシュが銃の扱いに熟達していること、仲間を連れ去られても、決して冷静さを失っていないことが分かる」

※第1話より ©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH

「確かに正面からのショットで、弾倉が回転していることが分かりますね。細かいなあ」