「この賞は『言葉と人の賞』なんです」

「もちろん、この言葉とこの人はセットだよねっていうわかりやすいものもあれば、そうも行かないときもあって。それだけに受賞者を選ぶのはなかなか大変です。なおかつ『その言葉の受賞者はその人ではないんじゃないか。もっとふさわしい人がいるんじゃないか』とご意見をいただくこともあるので、そういう問い合わせがあったときに、こういう理由で決めたときちんと説明できるように選んでいます。だから、その作業が一番大変ではあるけれど、一番面白いところでもありますね。

 そういう意味では、この賞は『言葉と人の賞』なんです。それは最初からブレていません。流行語は一過性のものだから、いずれ流れ去ってしまうんですけれども、それでも、たとえば『裏金問題』(2024年・トップテン)だったら、裏金議員の方々というわけにはいかないですから、『政治とカネ』を告発し続けている上脇博之先生に、となる。言葉とそこからイメージされる人は一体だということを感じながら、毎年選んでいます」(大塚さん)

「政治とカネ」の追求を続ける神戸学院大学の上脇博之教授 ©時事通信社

新語・流行語大賞に選ばれて社会に定着した「セクシャル・ハラスメント」

 新語・流行語大賞に選ばれたことで、その言葉がさらに社会から注目され、定着したというケースもある。1989年に新語部門・金賞を受賞した「セクシャル・ハラスメント」はその顕著な例だ。このとき受賞者に選ばれたのは、日本におけるセクシャル・ハラスメント裁判の第1号と位置づけられる「西船橋駅転落死事件」で、被告となった女性についた主任弁護士・河本和子氏だった。この事件は、駅のホームで女性が執拗にからんできた男性に抵抗して体を押したところ、相手が線路に転落し、入ってきた電車に挟まれて死亡したというもので、判決では女性の正当防衛と認められ、無罪となった。

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 受賞に際して河本氏は、《この言葉自体は、私が使い始めたものではなく、裁判をやる中で知ったんですが、この賞をお受けしたのは、言葉だけでなく、その実体がなくなるためのひとつのステップと考えたからです。その言葉が使われなくなることが私の理想なんです》と語ったが(『週刊文春』1989年12月14日号)、その思いに反して36年が経ったいまもセクシャル・ハラスメントという言葉は使われ続けている。

 それでも、この言葉が広まったことで、それまで被害者が確実にいながら見過ごされてきた事象が浮き彫りにされ、社会問題として人々が意識するようになったという意義は大きい。この語から派生したパワー・ハラスメントなどについても同様のことがいえる。