就職氷河期世代を直撃
履歴効果は「就職氷河期世代」を巡る問題を議論する際にもよく登場します。新卒時の採用環境があまりにも厳しく、正社員として就職できなかったことは、その世代の方々にとっての悲劇にとどまらず、日本経済全体としても大きな痛手となっています。
意中の企業・業界に就職できていれば優秀な働き手になっていたはずの人々が、生まれた年(=就職する年)、すなわち「運」が悪かったという理由で、十分な経験を積めず、潜在能力を十分に活かせていないのですから、労使双方にとって悲劇でしかありません。
これは「新卒一括採用」という制度的問題にも起因しているため、非常に複雑な議論です。平時において若年層の失業率が低位に保たれるという良い面を壊さずに、より柔軟な設計が望まれます。
また今後、その世代の方々が高齢者となっていく過程では、十分な貯蓄がないまま退職年齢を迎えることも想定されます。幸か不幸か日本経済は著しい人手不足に直面しているため、全体として見れば就職先はありそうですが、個別に見れば、高齢になるほど困難な環境に直面してしまう事例は少なくないでしょう。
このようにして、一時的であるはずの景気悪化が、履歴効果によって長期停滞につながってしまいます。
ちなみにリーマンショック以降、欧米諸国が大胆な経済対策を講じるようになった背景には、このような日本の教訓があったとも言われています。不名誉なことに「日本化(Japanification)」は低成長、低インフレの併存を指す経済用語になっており、政策当局者が最も避けようとしている経済環境です。



