犯行前日に「誰よりも愛している」と…
11月18日になると、夫は「またニューヨークへ行くけれど、今回は全く違う目的で出かけるのだ」と言ってグローリアを説得しようとした。同じ頃、チャップマンの母方の祖母がハワイに遊びに来ることになった。そこで祖母の帰りのフライトと一緒にシカゴまで飛んで、そこでニューヨーク便に乗り換える計画にしたと言う。あまりの頑なさにグローリアはなすすべもなかった。
チャップマンの祖母は11月22日に到着、12月5日まで滞在した。マークはツアーガイドを引き受けた。
12月6日土曜日は出発日だった。雨で交通渋滞がひどくタクシーが遅れたので、祖母と一緒に空港に着いた時にはもう出発時間が迫っていた。
「クリスマスまでには帰ってくるのかしら」
そう尋ねると、いや、1ヵ月以上はかかると夫は言い、急いでグローリアをハグすると、空港ゲートに向けて走り出した。
12月7日夜10時頃、夫は電話してきて、とても寂しいと言ってきた。グローリアが土曜日に一人で行ったパーティーがどうだったか訊いたけれど、別れぎわに楽しんでくるように言わなかったことを詫びた。今回のニューヨークは天気がとてもよく、寒くない。母ダイアンに電話して、自分がどれほど愛しているか伝えるように。そう言ったうえで、出発間際に言ったことを繰り返した。君をどれだけ愛しているか。誰よりも愛していること。ときにはそう思えないかもしれないけれど、常に心から思っている、と。
テレビ画面に流れたテロップ
グローリアはちょうどベッドに入って聖書を読んでいるところだったので、問題は一つひとつ取り組んで解決していくようにと話した。彼もそれに同意し、小さな聖書を持って来ていると言っていた。良い電話だった。だからこそ、次の晩のショックは大きかった。
あれは12月8日、月曜日の夜——グローリアははっきり記憶していた。
「仕事から帰って、カウチに座って夕食を食べていたのです。ちょうど連続ドラマ『大草原の小さな家』をやっていました。長女メアリーの目が見えなくなったという話が展開している場面で、突然、画面下に『ジョン・レノンが撃たれた。白人男性が逮捕された』というテロップが見えたのです。私は目の前が真っ暗になりました。直感的に、ああ、それはマークにちがいないと思ったのです」