もちろん、これは怒りの感情をコントロール出来ない夫の弱点を良く知りつくしているセツだからこそ、なせる業でした。そして私は、この当時の日本には、新しい時代に上手く適応できず、金勘定が下手な男たちがきっとたくさんいたような気がするのです。賢い明治の女性たちは、その辺をうまく調整して、上手に裏方をつとめていたのではないでしょうか。

工藤 美代子(くどう・みよこ)
ノンフィクション作家
1950年、東京都生まれ。18歳でチェコのカレル大学に留学。帰国後に70年大阪万博の通訳。72年の札幌五輪のコンパニオンをつとめる。73年にカナダに渡りコロンビア・カレッジを卒業。93年に日本に帰国。昭和史、皇室関係のノンフィクションを執筆。『工藤写真館の昭和』で講談社ノンフィクション賞受賞。主な著書に『悪名の棺 笹川良一伝』『絢爛たる醜聞 岸信介伝』『母宮貞明皇后とその時代 三笠宮両殿下が語る思い出』『美智子皇后の真実』など。
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