朝ドラ「ばけばけ」(NHK)ではラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルとするヘブンがたびたびカンシャクを起こし、小泉セツをモデルとするトキ(髙石あかり)を困らせている。ハーンの評伝を書いた工藤美代子さんは「アメリカでの結婚・離婚歴のあるハーンだが、セツはまさにハーンを受け止められる女性だった」という――。
※本稿は、工藤美代子『小泉八雲 漂泊の作家ラフカディオ・ハーンの生涯』(毎日文庫)の一部を再編集したものです。
なぜハーンにとってセツは特別だったのか
ハーンの目に映った妻のセツは、親孝行で働き者で、しかも日本の昔話を上手に語ることができる女性でした。しかし、それだけでは、あれだけ仲睦まじい夫婦は生まれなかったと思うのです。
彼女が、ハーンの今まで知っていた女性と決定的に違う点とは具体的には何だったのでしょう。その秘密は、ハーンが亡くなった後に発表された小泉セツの『思い出の記』に隠されているような気がします。その中でセツはハーンの性格を語っているのです。(文中「ヘルン」とあるのは、当時の日本人がハーンを呼ぶときに用いたいい方で、セツもそう呼んでいました。)
「私が申しますのは、少し変でございますが、ヘルンはごく正直者でした。微塵(みじん)も悪い心のない人でした。女よりも優しい親切なところがありました。ただ幼少の時から世の悪者共に苛められて泣いて参りましたから、一国者の感情の鋭敏なことは驚くほどでした。」
ここで「一国者(編集部註:頑固で自分を曲げない人)の感情の鋭敏なこと」というのは、もしかして英語でいうところのエキセントリックということかもしれません。
セツの手記「ヘルンの勉強を妨げたりすると…」
「嫌いとなると少しも我慢いたしません。私はまだ年も若い頃ではあり、世馴れませんでしたから、この一国には毎度弱りましたが、これはヘルンのごくまじりけのないよいところであったと思います。」
「人に会ったり、人を訪ねたりするような時間をもたぬ、といっていましたが、そのような交際のことばかりでなく、自分の勉強を妨げたりこわしたりするようなことから、一切離れて潔癖者のようでございました。」
