とはいえ、人々の心を掴んだのは、何もセクシーな場面があったからだけではない。中山のシャープな美貌と演技は多くの人々を魅了した。実際、ドラマ初出演とは思えないほど、中山の演技は達者だった。後に『ママはアイドル!』などのドラマをプロデュースするTBSの八木康夫氏は、中山について「俳優としては天才型」と評している(『AERA』2010年1月18日号)。

 徹の父を演じた小野寺昭は当時を振り返って「何よりも驚いたのは中山美穂」「オーラがあった」と語り、「パート2には出ないだろうな、と思ったらちゃんと出てくれた」と感激したという(YouTube「丈熱BAR」2024年5月19日)。

アイドル歌手としてデビュー→スマッシュヒットを記録

 ドラマで知名度を上げて、アイドル歌手としてデビューする。田原俊彦、近藤真彦らが歩んだ80年代の黄金パターンを中山も踏襲した。『毎度おさわがせします』が轟々たる反響を巻き起こす中、すかさず同年8月スタートのドラマ『夏・体験物語』(TBS系)に出演。クレジットは売り出し中だった少女隊のミホとレイコより後、網浜直子と同列だったが、中山は主題歌のデビューシングル「C」をリリースした。

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 オープニングはレオタード姿で乱舞する4人にエロ教師(役名は金井玉二郎)の吉幾三が乱入するというもの。第1話の冒頭も、温泉につかりながら初体験について語っている4人のもとへ吉幾三がやってきて撃退されるというセクハラを超越したすさまじいものだった。ドラマの仕上がりも、吉幾三の怪演が終始一番目立っている。

中山美穂『C』(1985年)

中学生で「ロストバージン女優」と呼ばれて

「C」はスマッシュヒットを記録。セックスを意味する曲名とドラマの内容をあわせて「ロストバージン女優」と呼ばれることもあったが、中山はトップアイドルへの階段を一気に駆け上がった。この年の12月には『毎度おさわがせします2』(TBS系)にも出演している。

 しかし、まだ中学生だった中山の心は人知れず傷ついていた。「ロストバージン女優」と呼ばれることについて「もう慣れちゃいました。普段はそうじゃないんだって、一人一人に説明するわけにもいかないし」と気丈にコメントしていたが(前掲書)、ラジオ番組を担当した放送作家の水野克紀氏は「下着姿で飛び回って恥ずかしくないですか?」というハガキに涙が止まらなくなった姿を目撃している(『月刊アドバタイジング』1986年6月・電通)。