歌手、俳優として活躍した中山美穂が亡くなって早くも1年が経つ。トップアイドルとして時代を駆け抜けた中山美穂だが、俳優としても瞠目すべき実績を残している。ここでは中山美穂がデビューから結婚で芸能活動を休止するまでの期間に出演したドラマ、映画をあらためて極力すべて目を通した上で、彼女がどんな作品でどんな役を演じてきたか、それがどんな意味合いを持っていたかを考えてみたい。(全5回の3回目/続きを読む)
※以降、作品の展開や結末に触れている場合があります。
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トレンディドラマ時代の“中山美穂”
トレンディドラマとは、1980年代末から90年代初頭、つまりバブル期の数年間の間に量産された、男女の恋愛や世相を描いたドラマ群の総称――という説明が一般化している。しかし、正しい定義はない。
トレンディドラマを量産して確立したのは、中山美穂の『な・ま・い・き盛り』や『おヒマなら来てよネ!』を企画・プロデュースして成功したフジテレビの山田良明氏。若い女性のドラマ離れに危機感を抱いていた山田氏は、彼女たちが楽しめるドラマを作ろうと考え、警官たちのラブコメディー『君の瞳をタイホする!』やW浅野の『抱きしめたい!』をプロデュースした。
山田氏の後輩である大多亮氏が自分で采配を振るったトレンディドラマが、1989年1月スタートの『君の瞳に恋してる!』(フジテレビ系)だ。若い女性に楽しんでもらうドラマの主演に、同世代から圧倒的な支持を得ている中山美穂を起用するのは、ある意味当然だった。
「アイドルを卒業して大人のドラマを」初の月9は大成功に
大多氏の著書『ヒットマン テレビで夢を売る男』(KADOKAWA)には「中山美穂も18歳になったし、もうアイドルドラマを卒業して、大人のドラマをやってもいいんじゃないかというところからスタートしたのがこのドラマ」と記されている。
東京・代官山を舞台に、中山、菊池桃子、藤田朋子、大鶴義丹、前田耕陽、田中美奈子、吉田栄作(本作が実質ドラマデビュー)、石田純一らが恋愛を楽しむというストーリー。トレンディドラマの王道である。中山と菊池、藤田はミングルと呼ばれるマンションで同居している設定だった。新幹線の食堂車やボトル入りのバドワイザーなどが時代を感じさせる。
第1話のラストで中山がトヨタ2000GTを乗り回すプレイボーイの石田に濃厚なキスをするが、恋愛の決着としてのキスではなく、複雑な恋愛模様の始まりのキスであり、すでに男性ファンは眼中にないことがよくわかる。
最終回は東京タワー(貸し切って撮影した)で前田と長いキスを交わし、翌朝ホテルの一室で裸のまま抱き合って眠っている場面で終わった。これが当時の若い女性たちの理想の恋愛だったのだろう。最終回の視聴率は23.6%を記録。中山にとって初の「月9」は大成功に終わった。

