エポックメイキングだった“純愛ドラマ”
大多が初めて単独でプロデュースしたのが、1990年10月スタートの『すてきな片想い』(フジテレビ系)だ。中山にとっては20歳になって初めての連続ドラマとなる。脚本は当時27歳の野島伸司氏が担当した。
トレンディドラマの退潮を察していた大多は、様々な恋愛をしながらよりいい恋を探すのではなく、“一途な恋”を描くことをコンセプトに据えた。ここから後に“純愛ドラマ”の『東京ラブストーリー』や『101回目のプロポーズ』などの大ヒット作につながっていく。いわばエポックメイキングな作品だった。
これまでは芯が強く、言いたいことをはっきり言う明るい役柄を演じることが多かった中山だが、本作では内気で本心を秘めるタイプの地味で平凡なOL・与田圭子を演じている(相手役は柳葉敏郎。役名は野茂俊平)。
大きな転換だったが、大多氏は「中山美穂という女優のキャラクターもこのテーマにはぴったりハマると思った」と著書に記しており、中山の資質を見抜いていたようだ。後にコラムニストのナンシー関も「(中山美穂は)元々けっこう重いキャラクター」と記していた(『広告批評』1998年10月号)。
大多の思惑は当たり、最終回で視聴率26.0%を記録する大ヒットに。最終回のラスト数分前まで二人が結ばれるかどうかわからない焦らし方だった。見た目は大人しいが実は激しい性格の同僚OLを演じた和久井映見が強い印象を残し、本作からステップアップしていく。
強気な役柄から、「哀しみを湛えたしっとり系」への移行
1991年1月放送『水曜グランドロマン』の『いつか、サレジオ教会で』(日本テレビ系)は、ロマンティックな挙式に憧れる中山と、区役所で働く合理主義者の恋人・吉田栄作が主人公。恋愛ドラマというよりホームドラマで、中山の父親役・室田日出男がいい味を出していた。
ホイチョイ・プロダクションズの映画『波の数だけ抱きしめて』は1991年8月公開。1982年の湘南のミニFM局が舞台で(撮影はほとんど千葉の千倉)、中山が演じるのは小麦色の肌をした女子大生。織田裕二、別所哲也ら男たち目線の物語であり、彼女の内面はほとんど描かれない。
ストーリーを動かすのは、感情を剥き出しにする松下由樹のほうだった。監督の馬場康夫も思い入れがあったようで、自身のYouTubeで「あの映画は松下さんの映画」と発言している(2023年4月14日)。
