「中山美穂と工藤静香を使って」と始まった企画
1989年8月に公開された映画『どっちにするの。』は、撮影監督の高間賢治氏によるとバーニングプロダクションの周防郁雄氏から「中山美穂と工藤静香を使って1本映画を作らないか」と東宝に持ちかけられた企画だったが、途中で工藤静香が出ないことになり、金子修介監督はシナリオを変えざるを得なかった(『映画撮影』日本映画撮影監督協会)。86年の時点で、中山の所属事務所ビッグアップルはバーニングの系列に入っている。
ソ連の人工衛星から落ちたトンカチのせいでコンピュータに異変が生じたおもちゃ会社で、解雇予定の女子社員が社長(伊藤智恵理)と副社長になってしまうというトンチキなストーリー。主人公の遊び好きだけど健気でしっかり者で芯が強い20歳のOLという役柄は、これまでの中山美穂のイメージに沿ったもの。
ヤングエグセクティブの真田広之が恋の相手になるかと思いきや、実は会社乗っ取りをたくらんでおり、同僚の風間トオルを選ぶ。「恋も仕事も頑張ろう」というラストのセリフは、当時の若い女性たちの気持ちを代弁したものだろう。16歳の宮沢りえが鼻持ちならないお嬢様役で出演している。
織田裕二との共演作ではトレンディドラマに変化が
1990年1月スタートの『卒業』(TBS系)は、早くもトレンディドラマの終焉を感じさせる作品だった。織田裕二、的場浩司、仙道敦子、河合美智子、永瀬正敏という共演陣はトレンディドラマ風だが、実際には恋愛だけでなく、就職、Uターン、結婚などをめぐる女性3人の生き方を描いた青春群像劇。主題歌はDREAMS COME TRUEの「笑顔の行方」。これが彼らにとって初のヒット曲となった。
かおり(中山)、紀子(仙道)、友子(河合)は、卒業を控えて就職活動中の女子短大生。スキー場のゲレンデで3人声を合わせて言う「三上博史みたいな素敵でカッコいいの、いないかな?」というセリフは、地に足のついたリアルなもの。ただし、同じく大学生の現実を描いたドラマ『ふぞろいの林檎たち』のようにシビアになりすぎず、ちゃっかりゲレンデで織田裕二と出会うあたりはトレンディドラマの残滓がある。
就職の厳しさや女子短大生への偏見、親たちの思いを描くなど、リアル志向は垣間見えるものの、最終回でそれぞれの道を歩みはじめた仙道、河合を尻目に中山が恋愛に走るところがまだドリーミーだった。
1990年4月にはゴールデンタイムに昇格した『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)の第1話「恐怖の手触り」に出演。中山はSFやファンタジーにはまったく縁がなかったキャリアの中で唯一となる超能力者を演じた。中山美穂のネームバリューを見込んだ起用だと思われる。

