高級ホテルもサービスもいらない

私が一番衝撃を受けたのは、近所のファミリーの娘キアスティーネの日本旅行です。高校を卒業して、親友と一緒に日本の東海自然歩道を歩く旅に出たのです。

大きなリュックとテントを背負い、スマホの充電をするために、リュックに携帯式のソーラーパネルをつけて、女子2人で自然歩道をひたすら歩き、自分で持ち歩くテントに寝泊まりする旅です。途中で短期の職業体験をしながら宿泊できる場所に泊まったりもしたそうです。

コロナ明けだったこともあり、デンマーク人女子2人の自然歩道歩きはめずらしがられ、地元の東日新聞から取材を受けて記事が掲載された、と喜んでいました。

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デンマーク人を見ていると「贅沢」や「休み」の概念が、日本人とはまるで違うように感じることがあります。レジャー施設に行かなくても、いいホテルに泊まらなくても、サービスなんてなくてもいい。

ラクすることが楽しいのではなく「一緒に体験する」ことが楽しい。その極みが、女子2人の自然歩道の旅に表れています。

10代後半の娘が友達と遠いアジアに、しかもバックパックでテントの旅をすることに親としては不安はなかったのか? と思いましたが、ご両親は、娘の青春の1ページを誇らしそうに、一緒に笑いながら話を聞いていました。なんておおらかな素敵な国なのでしょう。

針貝 有佳(はりかい・ゆか)
デンマーク文化研究家
東京・高円寺生まれ。早稲田大学大学院・社会科学研究科でデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」について研究し、修士号取得。同大学・第二文学部卒。2009年12月に北欧のデンマークへ移住して、デンマーク情報の発信をスタート。首都コペンハーゲンに5年暮らした後、現在はコペンハーゲン郊外のロスキレ在住。著書に『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』。
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