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会社が故意であることを正直に自白しない限りは……

 実は、労働基準監督署に申告したことを理由として労働者が解雇や配置転換、降格、賃金引き下げなどの報復を受けたとしても、それが報復人事だと労基署が判断することは極めて難しいという事情がある。

 なぜなら、不利益扱いの理由を尋ねる労基署に対して、大抵の会社は「労基署の申告とは関係ありません。たまたまこの労働者に問題があったからです」ととぼけてくるからだ。いくらあからさまな狙い撃ちであったとしても、会社が故意であることを正直に自白しない限りは、労基署は手を出すことができないのである。

 このように、労基署は、申告に対する会社の報復について、現状ではあまりにも無力だ。では、労働者が労基署に申告する際には、会社からの仕返しをなすがままに受け入れなければならないのだろうか。あるいは退職して、報復の可能性がなくなるまで待つしかないのだろうか?

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最近建て替えられた、東京都墨田区の向島労働基準監督署(国交省ウェブサイトより)

労働組合なら、違法な「報復」を止められる

 労基法とは別に、労働組合法では、組合に加盟して活動していることを理由とした不利益な取り扱いを禁止している。労働者が労働組合に加入している場合は、労働組合が労働委員会に申し立てをすることで、違法な報復でないかどうか、審査を受けることができる。

 とはいえ、労働委員会の手続きは、ある程度時間がかかってしまう。そこで強力なのが、労働組合による実力行使と社会的な発信だ。一連のジャパンビバレッジに対するブラック企業ユニオンの行動のように、企業から違法な労働組合つぶしを受けているとして、そのことをネットで公表して支援を集めたり、ストライキに踏み切ったりすることができるのである。実際にAさんの事件では、事実上の解雇撤回をさせることができた。

「働き方改革」の旗を振る厚生労働省 ©文藝春秋

 最後に、当事者たちの思いを聞いてみよう。まずは、JR東京駅でストライキを実行した組合員のBさんの発言だ。

「『持ち帰り』がジャパンビバレッジのどこでもある実態を知っている身としては、絶対にできないはずの、明らかにおかしい懲戒だったんですよね。

 会社も現場のことを知らないわけがないのに、Aさんを悪者扱いすることしか考えていないんだと痛感しました。こんなアホなことではAさんをクビにさせられないと思ってストライキに臨んだので、今回の『撤回』は、収穫だと思っています。でも、本当は普通のことというか、当たり前のことなんですよね」

 懲戒解雇を「撤回」された本人であるAさんは次のように語る。

「懲戒を予告されて以来、解雇は覚悟していましたし、『明日いきなりクビになるかもしれない』という不安は常にありました。でも、会社が解雇をあきらめたことを知ったときは、『やっぱり組合を恐れているんだ』と確信しましたね。

 労基署に行ったり裁判したり、会社と闘うにはいろんな方法があると思うのですが、会社から報復を受ければ、『こんなことならやらなければよかった』となってしまいかねません。現職でそれを跳ね返せるのは労働組合だけですよね。

 今回は、組合がどれだけ大きな力を持っているか身をもって実感しました」

 読者の中にも、自分がいま働いている会社の労働問題を告発したいが、そのことが知られたら、会社に何をされるかわからないと不安な人も多いだろう。働き続けながら企業と闘い、労働条件を改善させたければ、その「最強」の選択肢は、労働組合なのである。