労働組合による予想外の反撃を受けて、会社はなかなか解雇に踏み切れないまま、Aさんに懲戒処分を予告しながら、3ヶ月が経過した。そして7月上旬に会社がAさんに告げたのは、わずか3日間の出勤停止。2週間の自宅待機命令、3ヶ月の調査期間を経たうえで、懲戒解雇の「予告」までしていたことからすれば、拍子抜けしてしまう内容である。事実上の解雇「撤回」だ。
もちろんこの処分も不当であることに代わりはなく、ユニオンでは抗議している。また、残業代の支払いについては、会社は依然として不誠実な対応を続けており、「解決」には程遠い状況だ。とはいえ、解雇に比べれば大きな「勝利」であると言って良いだろう。
ブラック企業による「働き方改革潰し」
このような手口は、ジャパンビバレッジだけの問題ではない。
安倍政権が「働き方改革」を提唱して久しいが、その改革の中心として、労働基準監督署に多くの役割が期待されている。しかし、その労働基準監督署に申告したことをもって、申告した労働者に対して不利益な取り扱いをしてくる企業が目立っている。
最近でも、関西大学の付属小学校・中学校・高校で、労基署に申告した教員Bさんに対して、同学が狙い撃ちで解雇を行うという事件が起きている。Bさんは半年間の自宅待機命令を出されたうえ、懲戒委員会がBさんは懲戒処分に値しないという結論を出したにもかかわらず、理事会の一方的な決定で解雇を強行するという露骨な不当解雇であった。
せっかく労基署の活躍が注目されて「働き方改革」の機運が盛り上がっているにもかかわらず、自分たちの企業の労働問題を誤魔化すため、申告者に報復して、「傷」を最小限に抑えるという手法。
これはブラック企業による、いわば「働き方改革潰し」を目的とした「報復解雇」なのだ。
では、この手口にどのような対策があるのだろうか。
労基署に申告した労働者への違法な「報復」
労働者に対する「報復」は、労働基準法104条2項において、以下のように禁止されている。
「使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。」
「前項の申告」とは、使用者の労基法違反について、労基署に申告することを指している。このような規定があるのなら、労基署に申告した労働者は労基署によって保護され、企業は取り締まられるはずだ。では、この条項はどれくらい活用されているのだろうか。
次の表は、厚労省が例年3月に出している「労働基準監督年報」と、今年6月にブラック企業ユニオンが厚労省労働基準局監督課に質問して得た回答をまとめたものだ。
労基署に申告された会社は毎年約3万。そのうち、申告に対する「報復」が認められたのは年間0~1件である。この数字から単純に考えると、労基署に申告しても、報復を受ける可能性はせいぜい3万分の1ということになる。とても信じられない確率だ。労働者から労基署に申告された会社は、自らの過ちに向き合い、労働者に対して誠実に接するようになるとでもいうのだろうか。