「生きてるだけで素晴らしい」と教えてくれた娘

――現在は、ご結婚されて第一子の娘さんもいらっしゃる。ご家族との暮らしで価値観に変化はありましたか?

斉藤 そうですね。変化はすごくあります。資本主義のど真ん中でビジネスに没頭していると「人はいかに成長するか」っていう判断基準で見てしまう。その反動として、僕には「人間って成長だけが善じゃないじゃん!」みたいな思いもあったんですけど、娘を見ると、本当に「成長って美しいんだな」って思わせてくれる。

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――すくすくと育っていくさまに、生命力があふれていて。

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斉藤 そうです。もちろんミルクあげたり、オムツ替えたりはするんですけど、もう自然に刺激を受けて、どんどん吸収して、言葉も自ずと喋れるようになる。

 ベンチャーで起業して会社をやってると、いかに事業と人のビジネススキルを成長させるかっていうのに没頭するわけで、西江とも「お前は成長してるの?」ってお互いに求め合い続けていました。そうなると自然に、会社での評価は「仕事で成果を出したかどうか、成長したか」で測られることになります。

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 そこで自分を追い詰めてしまう人って「仕事ができない、優秀じゃない」と評価を下された場合に、最悪、それをそのまま自分の命の価値にまで重ねてしまうこともある。でも僕の場合、そこに至らなかったのは、「別に何も為さなくても、生きていればいいんだよ」っていう、いわゆる無償の愛を受け取ってこられたからなんです。

――いいご家族のもとで育たれて。

斉藤 幸い、僕自身恵まれていたから、仮に「仕事ができない」と悩んだとしても、自分の命の価値ごと傷つけるようなことはなかった。そして自分の子が生まれて愛するにあたって、会社とはまた違う人間の見方・目線っていうのを得られました。

――そういうバランスのとれた目線って大事ですよね。

斉藤 例えば子どもに「話せた、歩けた、立ち上がれた。だからお前は素晴らしい」なんて言わないじゃないですか。子どもへの目線には条件が付かない。生きてるだけでいいのに、こうやって成長してくれるのってすごいことです。

 この感覚がわかったのは、自分の人生において大きなところなんです。