斉藤 その1つの入り口を広げる手段として、カフェがあるのかな、と。現代人が「幸せに生きるうえで役立つね」って思ってもらえるような茶文化・カフェ文化っていうのを作っていきたいんです。

 モノが満たされている時代で、体に摂取する栄養は満たされているけれど、目に見えない「心の栄養」は蔑ろにされている。その心の栄養になるような茶文化・カフェ文化っていうのを体現していけたらなって、思っています。

 例えばお茶カフェに朝に立ち寄って、何かインプットするとか、あるいはボーっとリラックスしてから出社するとか。習慣としてビジネスパーソンに根付けば、心身にも良くて仕事のパフォーマンスも上がる。仏教の寺のようにカフェをいろんなところに「建立」できたら、ということも考えています。

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作法があるから自由になれる

――茶道ってふくさをこう畳んで……みたいな、お作法がすごく難しいじゃないですか。

斉藤 そう、でも習慣と同じでね。現代って自由が何より善とされる時代だけど、逆にいうと、自由になるってことは「何でもあなたが決めてください」ってことになる。これって不安になるんですよ。

 生活習慣があれば、他の時間っていうのは、戻ってくる生活習慣があるからこそ自由に使えるじゃないですか。それと同じで茶道も、ルールも何もない状態だと不安になる。だからある程度決まっている所作を、無心で勝手に手が動くようになるまで鍛錬すれば、目の前のお客さんを喜ばせるという方向に自由になれる。

――なるほど。そう考えれば、指導してくれるインストラクターに魅力があったら覚えられるかもしれないです!

©︎文藝春秋

斉藤 (笑)。裏千家茶道とか茶道教室って聞くと堅苦しいイメージがあると思うので、もっと現代の人が取り組みやすい、茶道が役に立つ、と思ってもらえるパッケージを見出す必要があるのかな、と思います。

店員もお客さんもお互いを助け合って思いやる空間にしたい

――先日、斉藤さんのカフェSUZU MATCHA(“曜日で看板が変わる”カフェ内で出店)にうかがってみて、すごくよかったです。お茶も美味しいし、器も素敵。それに気楽に行ける感じでした。経営的にはどうですか?

斉藤 席数も多くないし、今の時点ではギリギリ黒字という状況。僕はそれでもやっぱり、茶室の考え方と一緒で、店員もお客さん自身も、お互いがお互いを助け合って思いやる空間にしたい。人が混雑しすぎるのってブランドにとって負の要素でしかない。でも人が来ないと売り上げが立たないってジレンマはあります。

 ある会社の取り組みをにヒントを得つつ、やってみたいのが、賛同者に応援の意味合いを含んで、サブスクリプションでお金を払ってもらうシステム。そうすると無理にお客さんをどんどん入れたりとか、メチャクチャ安い賃金で従業員を雇わなくても済む。その場を応援したいという、お金に余裕がある人が支援してくれるという形で。

――スポンサーとか、クラウドファンディング的な?

斉藤 そうです。実現すれば、そのエコシステム、ビジネスモデルっていうのは、成り立つんじゃないかなって思っていて。それも今後チャレンジしてみたいことですね。

©︎文藝春秋

写真=三宅史郎 /文藝春秋

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