金融界が直面する最大テーマは「金利上昇」である。伝統的な預貸業務が復活し、利ざやの拡大が期待できる「希望の世界」だ。運用先に困る低金利時代には、銀行にとって預金は「お荷物」だったが、金利ある世界では預金量の多寡が競争力を左右することになる。
だが、こうした環境の変化を必ずしも「希望」と呼ぶことができないのが、地銀各行だろう。ネット銀行やEC(電子商取引)事業者など異業種との競争も激化する中、人口減少が進む地元経済から離れられない地銀は、思うように市場規模を拡大できないジレンマを抱えている。
危ない銀行の代名詞は「預金量の流出」
そんな地銀にとって、大きなインパクトを与えたとされるのが、7月1日に金融庁の新長官に伊藤豊氏が就任したことだった。東大法学部卒業後、1989年に旧大蔵省に入省。主税局などでキャリアを積んだものの、本人の希望もあって、2019年に金融庁審議官に転じた。
「伊藤氏は清濁併せ呑むタイプの“剛腕”で知られ、永田町にも幅広い人脈を持つ人物。『金利の上昇は競争につながり、勝者と敗者が現れることを意味する。再編は今やらないと間に合わない』と指摘しており、地銀再編の動きを加速させると見られます」(金融庁関係者)
果たして伊藤氏が狙うのは、どの地銀なのか。かつて危ない銀行の代名詞と言えば、不良債権の多さだったが、最近では「預金量の流出」がメルクマール。預金の減少は収益の減少につながり、資金繰りの厳しさに直結してしまうからだ。伊藤氏らは、23年3月に資金流出で破綻した米シリコンバレー銀行のようなケースが日本でも出かねないと警戒している。
25年3月期には、地銀61行、第二地銀36行の計97行のうち、実に約4割にあたる38行で、預金残高が前年度比マイナスになった。店舗を持たず、全国展開できるネット銀行が相対的に高い金利を打ち出しており、地銀など既存の銀行から預金を奪っている。また、東京への一極集中が拡大し、相続などに伴う資金も地方銀行から都心の大手銀行に移行していることも、預金流出に拍車をかけてきた。


