キーマンは伊藤氏だけではない

 監督官庁の伊藤氏だけではない。民間企業にも、地銀再編のキーマンとも呼べる2人の人物がいる。

 まず、フジテレビの経営問題でも注目を集めたSBIホールディングスの北尾吉孝社長だ。同社は7月末、傘下のSBI新生銀行が公的資金を完済したと発表した。続けて8月下旬には、岩手県の東北銀行と資本業務提携すると発表。これによって、SBIホールディングスが資本業務提携する地銀は計10行(島根、福島、筑邦、清水、東和、筑波、大光、きらやか、仙台、東北)になった。

SBIグループを率いる北尾氏 ©時事通信社

 SBI関係者によれば、「北尾氏はフジテレビ問題からはもう距離を置き始めた。公的資金も完済し、経営環境が苦しい地銀に触手を伸ばしていくと囁かれている」という。北尾氏が提唱する「第四のメガバンク構想(地銀連合でシステム共同化や金融サービスを連携させ、メガバンクに対抗する構想)」は今後、ますます加速していくものと見られる。

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県境越えの「飛び地再編」も

 2人目が、地銀に特化して立ち上げられた異色のファンド「ありあけキャピタル」の田中克典代表。3月には千葉銀行が千葉興業銀行の株式を取得し、筆頭株主になったが、これも、ありあけキャピタルの仲介によるものだった。同社の出資先には、北國銀行を傘下に持つ北國フィナンシャルホールディングス、山口銀行を傘下に持つ山口フィナンシャルグループ、愛媛銀行、スルガ銀行、滋賀銀行などが名を連ね、非公開の地銀も含めれば、10社程度とされている。

 地銀幹部は「押しが強い田中氏は、金融庁幹部とのパイプを誇示して再編を仕掛けてくるはず。私たちは戦々恐々としています」と本音を漏らす。

 すでに福井、長野、秋田の3県は事実上「一県一地銀」だが、地銀は依然としてオーバーバンキング状態。来年以降、全都道府県の4分の1がワンバンクとなる見通しだ。近年では、県境を越える「飛び地再編」も増えている。

 伊藤氏を筆頭に、北尾氏や田中氏も蠢く地銀再編。2026年、新たな局面を迎えることになりそうだ。

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 このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2026年の論点100』に掲載されています。

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