地方の第一次産業は崩壊する

 地方に技能実習生の取材に行くと、閉鎖的な漁村や山間部など、地元の人を除いた労働者がなかなか集まらないと思える土地にしばしば出くわす。しかし、そこで作られているものはスーパーのキャベツやキュウリであったり、「地域の名産」である牡蠣やミカンであったりする。

技能実習生なしでは地方の第一次産業は崩壊する(写真:annchan/イメージマート)

 仮に技能実習生に対して、雇用や居住の流動性を完全に保証した場合、彼らの多くはこうした場所では働かない。結果、多くの業者は倒産するか、もしくは高給で労働者をつなぎとめることになる――。ゆえに容易に予見できるのは、日本の野菜や水産物などの著しい高騰だ。

 技能実習生は社員食堂などの調理現場や、チェーン飲食店に供される惣菜の製造現場などでも数多く働く。制度が完全に消滅した場合、惣菜や外食の価格は、原価の高騰以上に大幅な上昇を見せるだろう。

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治安の安定か、人権擁護か、国民経済の安定か

 技能実習制度は実質的に、外国人の非熟練労働者に対して職業選択や居住の自由、つまり基本的人権を抑圧することで、日本の物価と人々の暮らしを支える制度であるとも言えるのだ。

 現実的な問題として、見知らぬ外国人労働者の人権のために物価高を受け入れられる国民は、決して多くないと考えられる。一部の外国人犯罪も含めた技能実習生問題は、実質的には日本人が現在の生活水準を維持するための不可避的なコストとなっている、という指摘さえも可能である。

 在日外国人問題に関して、治安の安定・人権擁護・国民経済の安定(物価)のすべての面で、日本国民が完全に満足できる答えを導き出すことは極めて困難だ。いずれの分野に重点を置き、政策や社会をデザインしていくか。そのヴィジョンが求められる。

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 このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2026年の論点100』に掲載されています。

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