――しつけの範疇を完全に超えていると思うのですが……。

 そうですよね。大人になって周囲にこの話をすると必ず驚かれます。でも当時の僕にとっては「普通の家庭」がどういうものかを知らないから、家っていうのはそういう場所なんだと思っていました。もちろん気持ちとしてはいやでしたけど、父親が異常だということはしばらくわかりませんでした。

 

――その生活はどのくらい続いたのですか?

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 両親は離婚後も関係が切れていなくて、姉と僕を定期的に交換したりしてたんですよ。なので母親と暮らす時期があったり、また父親の元に戻ったりという生活でした。実際は離婚から2年後に父親と母親は再婚していたようなんですが、離婚の時も再婚の時も僕は何も知りませんでした。

――再婚後は一緒に暮らすように?

 いや、再婚しても両親は別居を続けていましたね。なので父と過ごした時期も母と過ごした時期もあったんですが、姉とだけは10歳までしか一緒に住んでいなくて、一番遠い存在かもしれません。

「愛情や道徳観、倫理観みたいなものをインストールされ損ねたんです」

――幼い頃からバラバラで、当時の向さんにとって「家族」ってどういうものだったのでしょう。

 んー、考えたこともありませんでした。父親、母親どちらに対しても愛着や特別な感情を持てない子供だった気がします。両親のことも「父親の役割の場所にいる他人」「母親の役割の場所にいる他人」という感覚でした。

――その孤独感は、家庭環境によるものだと思われますか?

幼いころの向さん

 そうでしょうね。いわゆる普通の家庭だったら、親から愛情を注がれて、それを受け取って自分も周囲の人間に愛情を持てたんだと思います。

 もちろん親なりの愛情はあったんだと思いますが、少なくとも僕はそれを受け取れなかった。愛情や道徳観、倫理観みたいなものをインストールし損ねたんです。僕は今でも人を好きになるということがよくわかっていない部分があって、その弊害が抜けきっていないんだと思います。

 ただ、姉は僕以上にかわいそうでした。「普通の生活」に憧れていた人だったので。