3Dプリンターを駆使して快適な車内環境を追求

 実現が見えてきたタイミングで、国交省が「フルフラット座席を備える高速バスの安全性に関するガイドライン」を公表し、数カ月間をかけて対策を施した上で、2025年3月~8月に週1回の実証運行を開始した。そこでユーザーの声を聴いて改良を施し、ようやく12月から本格運行開始に踏み切ったわけだ。

 高知駅前観光はもともと座席改造などに積極的で「通常のリクライニングシートタイプとフラットンのような2段ベッドタイプでは車内空調の利き方が違う」といった問題が生じた際にも、即座に3Dプリンターで送風口を削り出し、車内で実験を繰り返した。実証運行の運行前から試験を繰り返し、こうした問題を解決したという。

ちなみにフルフラットシートの表面をめくると、リクライニングシートのモケットになっている。本来はリクライニングとフルフラットをすぐに可変させる設計になっていた(筆者撮影)

 今後ともこういった改良は積極的に行っていくといい、梅原社長は「実際に乗車した上で、感想を聞かせていただきたい。お客さまとともに、日本初の『フルフラットシートの夜行バス』を育てていきたい」と意気込む。

ADVERTISEMENT

フルフラットシートは普及していくのか?

 果たして、フルフラットシートは普及していくのだろうか。

 現在のところ、高知駅前観光が特許を有し、シートを外部に販売する形式をとっている。他社が導入する際にかかる費用は、バス1台丸ごとフラットシートに改造すると、4800万円程度とのこと。もし全席をフルフラットに換装した上で1席当たり3000~4000円の加算運賃を得られれば、乗車率60~70%程度なら5年程度で投資回収ができる。

 フルフラットシート夜行バスの競争相手は高速バスというより、新幹線・飛行機などの高速移動手段、そして「前泊」という行動様式そのものだろう。関係者によると、現在は新幹線駅がなく、東京に出るまでに一定の距離がある場所で運行する高速バス数社から問い合わせが来ているという。

 ちなみに、全国22路線の高速バスを展開する「WILLER EXPRESS」も、2025年12月4日の戦略説明会で平山幸司社長が「フルフラットシートの開発を進めている」「だいぶ良いものができています。是非ご試乗いただきたい」と明言して話題となった。

WILLER EXPRESS の車両。愛媛県松山市内にて(筆者撮影)

「リボーン」「ドーム」など数種類の快適な座席を選べるWILLERで、選択肢のひとつに「フルフラットシート」が加われば、高知駅前観光にとっては大きな脅威になる。もしWILLERが外販を始めれば「高知駅前観光 vs WILLER」という2大勢力によるフルフラットシート販売合戦が繰り広げられるかもしれない。

 いずれにせよ、首都圏や関西圏でのホテル代高騰が続く限り、プラス数千円で横になって寝られるフルフラットシートという選択肢は、十分に有力だ。これまでほとんどの場合「リクライニングシートが4列か、3列か」くらいの選択肢しかなかった夜行バスの進化に、期待したい。

最初から記事を読む 「安いから」だけではない…『ホテル』より『夜行バス』を選ぶ人が増え始めている、納得の背景

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。