102歳を迎えた作家の佐藤愛子さん。現在は介護施設に入られていますが、愛子節は健在です。

 佐藤さんは43歳のとき、莫大な借金を作った夫と離婚。姿を消した夫の代わりに借金を返しながら、女手ひとつで娘を育てました。しかしそれゆえに、娘との関係は一筋縄ではいかないものになっていったようで……。

 大作家・佐藤愛子はどんな母親だったのか。娘の響子さん、孫の桃子さんに伺いました。

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『週刊文春WOMAN 2026創刊7周年記念号』より、一部を抜粋の上ご紹介します。

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 佐藤さんは82歳の時、「母から娘への遺言」というインタビューを受けた(「女性自身」06年6月13日号)。そこで響子さんのことをこう語っている。〈あれが男の子だったら、完全に不良になっていますね。今考えてみると、本当に危ない橋を渡ってきました。でも、その代わり、人間嫌いっていうか、人付き合いっていうのを積極的にしない。育っていくときのトラウマがあるんだろうと思いますね〉

佐藤愛子さん

響子 何の視点で言ったんだろう……。でも、わからないでもないかな。「もうお腹いっぱい」って言っただけで、「いちいちわかってることを言いなさんな」とか言われて育ったんですよ(笑)。なんかもう黙ってた方がいいな、と思っちゃって、人と会って話すのが面倒くさい。だから、人間嫌いは人間嫌いなのかな。

家族円満だった頃。作家仲間の夫とともに、5歳のひとり娘・響子さんを見つめる。

桃子 でも子どもの頃から家に編集者が来たら、さーっと逃げたって言ってたじゃない。もともと人見知りだよね?

響子 うん、確かに逃げてた。

桃子 祖母は母の生来の人間性とか見ていなくて、全部、自分が育てたからそうなったと思うんですよ。自意識過剰で、めちゃくちゃ勘違いおばあさんだなあと思う。

長い時間かけて、「佐藤愛子対策」みたいなものを培った

響子 母のことを書いたり、話したりしてほしいという依頼は10代の頃からあったんです。でも思いの丈を正直にぶちまけると母の機嫌が悪くなる。母が気に入るような「悪口」や「困り事」じゃないといけない。自分の書きたいことを書く以前に、母の機嫌を窺うことに専心するわけです。それはしんどいですよ。本心とは別のことを書いた上に見せると直されるんですから。人に会うのも、本当に言いたいことは置いといて母好みのベクトルで相対していかなきゃならない。人嫌いにもなりますよ。

中学生の響子さんと。

桃子 母が祖母に黙って出版した『物の怪と龍神さんが教えてくれた大事なこと』(20年刊)にも、出来上がってから赤字を入れていましたから。否定が教育だと思い込んでる。