「顔面がかなり骨なんですよね」
近隣住民が、何日も窓を開けっぱなしで、洗濯物を干したままという部屋を不審に思い大家に相談。部屋を訪れた大家が発見したのは、一部が白骨化した遺体だった――。
2024年に過去最多となる160万人超の死者を数える「多死社会」の日本で、医師の診療管理下にない状況で死亡した遺体と向き合っている人たちが「検視官」だ。事件性の有無などを判断する役割を担い、警視庁や各道府県警察に所属している。
そんな検視官として、これまで約1600体の遺体と向き合ってきた経験がある山形真紀氏が『検視官の現場 遺体が語る多死社会・日本のリアル』(中央公論新社)を上梓した。今回は、同書から真夏のゴミ屋敷で腐敗した遺体のケースをお届けしていく。(全2回の1回目/続きを読む)
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この日は珍しく朝から解剖に立ち会っており、その後は通常勤務に復帰する予定でした。解剖の間も担当区域の変死事案が積み上がっていたので、早くに一報が入ったところから順番に回ることにしました。
最初に連絡があった現場の検視責任者に電話をしてみます。近隣住民が、残暑の季節とはいえ窓が開け放たれ洗濯物も干したままなのに、しばらく姿を見せない死者を不審に思い、アパートの大家に相談。訪ねた大家が室内で遺体を発見した事案です。
「補佐、部屋はゴミで一杯です。結構腐敗が進んでいて、顔面はかなり骨なんですよね」
腐敗が進めば一部骨になるのは仕方ありません。そうなると、まずは確認しないといけないことがあります。
「他の部位も骨なの? 首は大丈夫?」
事件性の判断において、骨が見えるほど腐敗が進んでいる遺体の場合、首の外表が確認できないのなら首の骨、とくに、甲状軟骨や舌骨の状態を必ず確認しないといけません。
図のとおり、甲状軟骨とは男性でいうところの喉仏にあたる部位、舌骨とは顎の下あたりのU字形をした骨なのですが、これらが骨折等していると首を絞められた可能性が浮上してくるのです。
「まあ大丈夫だと思いますよ。そこまで骨ではないし、服も着ているし」
今回の検視責任者はいつも変死事案をしっかりやってくれる強行犯係の係長です。
「私たちは解剖から戻るところでもうしばらくかかるから、検視を進めておいてください」
「わかりました、署に搬送します」

