2024年に過去最多となる160万人超の死者を数える「多死社会」の日本。多くの人が亡くなるうち、医師の診療管理下にない状況で死亡した遺体と向き合っている人たちがいる。各道府県警察に所属しており、事件性の有無などを判断する「検視官」と呼ばれる警察官だ。
そんな検視官として、これまで約1600体の遺体と向き合ってきた経験がある山形真紀氏が『検視官の現場 遺体が語る多死社会・日本のリアル』(中央公論新社)を上梓した。
検視官は一体、多くの遺体とどのように向き合い、事故性の有無などを判断していくのか――。腐敗遺体や浴槽内での変死、さらには自慰行為中に亡くなったと思われる遺体など、数多くのケースがまとまっている本書から「汽車っぴき」、いわゆる列車による轢死のケースをお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)
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9月の残暑厳しい夜、深夜11時を過ぎた頃、受理長から残念なお知らせが届きました。列車飛び込み、私たちが「汽車っぴき」と呼んでいた事案です。壮年の男性が踏切の外からスライディングして線路内に立ち入り、列車に轢かれたとのことです。いつも以上に急いで現場に向かいました。
なぜ急いで行く必要があるのかといえば、検視のためには必要な捜査を尽くし犯罪死の見逃しがないようにしなければならないのはもちろんですが、同時に汽車っぴきの場合、まずは列車運行の早期復旧を図るのが最大の目標となるからです。
多くの人が列車事故の影響による列車遅延に巻き込まれた経験があるかと思います。最近は首都圏において列車の相互乗り入れが増え、一旦遅延が発生するとその影響が広範囲に及びます。首都圏で複数路線が1時間以上もストップしてしまえば大変なことになります。
列車事故の現場では、まずは早急に現場を保存して鑑識活動などを進めるとともに、駅員や救急隊員、警察官などの安全を確保しつつ、現場から遺体や所持品等を回収して関係者から聴取します。最近は列車運転席の車載カメラや、踏切付近やホーム上に設置された防犯カメラなどから、事件性の有無について早期に解明できることが増えて、非常に助かっています。
