男に膝を屈しないヒロイン

 哀願しようと、脅迫しようと、若尾が演じるヒロインは男に膝を屈しない。純情を極めて狂気と紙一重の場所に陥ろうとも、このヒロインにはどこかあっさりとした部分がある。あきらめがよいというべきか、思い切りがよいというべきか、身体を張って修羅場で戦いつづけながら、ころっと死んでしまう呆気なさも備わっている。

 

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 これが、六〇年代の若尾文子を隈取る通奏低音だ。同じ年に川島雄三が監督した『女は二度生まれる』ではもう少し軽快な味と弾力性が加わるが、声と身体は水銀状なのに気質がドライ、という特性に変化はない。『夫が見た』や『清作の妻』といった増村作品になると、この傾向はさらに加速される。どちらの映画も、美しくて艶めかしく、どこかいびつで恐ろしい。若尾文子は官能の凶器だ。彼女ほど「映画と肌の合う」女優はめったにいない。