冬の休暇には、暖かい家でじっくり映画を観たい。たまにはクラシックな名画で、輝くようなスターの魅力に浸ってみたい。そんなときに手元に置きたい芝山幹郎著『スターは楽し 映画で会いたい80人』(電子書籍)から、「ギャング映画の代名詞」ジェームズ・キャグニーの項を公開。 (全4回の4回目/最初から読む

『彼奴は顔役だ!』Photo12 via AFP

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長い人気を誇ったキャグニー

 ある時期、ジェームズ・キャグニーはレストランで食事をするたび、他の席の客から半截のグレープフルーツを贈られていた。理由はいうまでもない。キャグニーが『民衆の敵』(一九三一)の一場面で、口やかましい愛人(メイ・クラーク)の顔にグレープフルーツを押しつけたからだ。クラークと離婚寸前だった実生活上の夫は、このシーンだけを劇場で繰り返し見て、溜飲を下げていたらしい。

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『民衆の敵』Photo12 via AFP

 ジョン・トラヴォルタは、五歳から『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』(一九四二)の熱狂的なファンだった。キャグニーが「ソング&ダンス・マン」の本領を存分に発揮したこの映画に、トラヴォルタは夢中になった。再上映されるたびに映画館へ通い、歌や踊りをすっかり覚え込んでしまった。後年、彼は八十歳のキャグニーに会う機会を得た。ふたりは心を通い合わせ、キャグニーが八十六歳で他界するまで親密な交流を続ける。

 冒頭に紹介したのは一九三〇年代の逸話だ。つぎに紹介したのは八〇年代の逸話だ。キャグニーの人気は長かった。長期にわたって敬意を払われつづけた。「映画史上最悪」とまで呼ばれた悪役でスターになりながら、キャグニーに対する世間の好意は一貫して揺るがなかった。不思議だ、とつぶやきたくなりそうだが、彼には魅力があった。癇癪玉のような動きや、スタッカートを思わせる喋りはもちろんユニークとしても、激情の陰にはなんともいえぬ愛嬌が潜んでいた。世間は、そこを見逃さなかったのだろう。