『幕末太陽傳』の躍動感はピカイチ

 後年、衝撃を受けたのは、やはり『幕末太陽傳』だった。初めて見たとき、私はすでに二十歳を超えていた。遅れた、と思ったが、もっと驚いたのは、主役のフランキーが撮影時、二十代だったことだ。彼の演じる佐平次は、機略と才覚で世間を渡っていく口八丁手八丁のトラブルシューターだ。移動の際、佐平次は歩かない。つねに小走りで、羽織をさっと身にまとい、階段を素早く上り下りする。表情は、柔らかいのに俊敏で不敵。

 この映画は、川島雄三監督のトップスピードとフランキー堺のトップスピードがぴたりと噛み合った幸福な例として記憶されるのではないか。『愛のお荷物』(一九五五)、『貸間あり』(一九五九)、『女は二度生まれる』(一九六一)など、ふたりの協働は数多いが、『幕末太陽傳』の躍動感は、なんといってもピカイチだ。最初と最後を除いて、まったくセットを出ない映画なのに、これほどダイナミックな印象を与えるのは、フランキーをはじめとする役者たちが片時も休まず動きつづけた成果というべきだろう。

 

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 それにしても、と私は思う。日本映画が卓抜な喜劇人を輩出していた時代とはいえ、フランキーはずば抜けてモダンで、ドライで、スピーディだった。ミュージシャン特有の反射神経のよさといえばそれまでかもしれないが、眼も耳も鋭い彼は、ナンセンスの楽しさを知り抜いていた。「♪ちめたくなったわらしを見とぅけて」と全身で歌うウィリー田中の姿を思い出すと、いまでもおかしくてたまらなくなる。