マサラ上映は映画ファンの口コミやSNSを通じて瞬く間に広がり、多くの観客が押し寄せた。しかし、動員が増えたからといって、必ずしも売り上げに大きく貢献したわけではない。
「マサラ上映は人件費などのコストもかかるため、採算を取るのが難しいんです。実際、続けられない劇場も多い。ただ、うちは『お客さんが楽しんでくれるならそれでいい』という考えがまずありました。さらに『サンサン劇場といえばマサラ上映』というブランディングの柱になるとも思ったんです」
また「フィジカルに映画を感じられるもの」という意志のもとで制作されたのが、段ボール戦車である。
アニメ映画『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015)の公開時に、「映画館に戦車があったら面白そう」という戸村さんの一言をきっかけに作られた。この戦車もSNSで拡散され、同劇場の存在を全国に広めた。
コロナ禍、映画館にできることはなにか
走り続けること数年。経営も上向きになっていたその時、新型コロナウイルスがサンサン劇場を襲った。
2020年2月に新型コロナウイルスが広がり、4月には緊急事態宣言が発令。サンサン劇場も営業ができなくなった。さまざまな不安が脳裏によぎるものの、戸村さんは決してネガティブには捉えていなかったという。
「コロナ禍では、映画館の存在価値が問われる厳しい状況でした。しかし私は西灘と西脇という2つの劇場の閉館を経験し、サンサン劇場でも2010年前後のどん底の状態を見てきました。体力や運営上の問題ではなく外的要因だと捉えれば、『必ず持ち直せる』と感じていました」
一方で、映画館のあり方を改めて考える契機にもなったという。
「映画館が不要不急の代表格のように名前を挙げられ、会場規制が緩んだ後も最後まで取り残されました。理不尽さを覚える一方で、それだけ身近な場所でもあったのだと思っています。これまでは予想を超える奇抜さを提供することを面白がってもらってきましたが、次は『どうすればお客さんや世の中の人たちの生活の一部になれるか』を意識するようになりました」