他と違う強みで今も成長を続ける

「コロナ禍のような事態が再び起こり得る」という前提に立ち、柱となるイベント上映に依存するのではなく、日々の動員をどう積み上げていくかも考えたという。そこで戸村さんが着目したのが、普段の上映作品同士に関連性を持たせることだった。

「緊急事態宣言の時にNetflixやPrime Videoを観ていて、画面に並ぶ『あなたへのおすすめ』を見た瞬間に『これだ!』と思ったんです。今まではただ上映作品を並べていましたが、ある作品を軸にして、近いテイストの作品を続けて2〜3本観られるような時間割にしたんです。結果、2023年にはコロナ前の2019年と同等の動員数で、2024年にはそれを超えました。2025年は、現時点(取材時11月)ですでに2024年を上回るペースです」

例えば、日本映画『百円の恋』と、そのリメイク作品にあたる『YOLO 百元の恋』を並べた上映や、『悪魔のいけにえ』と『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』というホラー映画の元祖的な作品を組み合わせて上映する。こうしたセカンド上映館ならではの強みを生かしたラインナップで、サンサン劇場は成長を続けている。

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「この映画館で観た」という記憶を残したい

最後に、戸村さんに今後の展望を伺った。

「これまでの取り組みを子どもたちや若い人たちに楽しんでもらえる機会を増やしたいです。子どもの時に映画館で映画を観たインパクトは、一生残ると思うんです。私も子どもの頃に『機動戦士ガンダム』を池田市の小さな劇場で観た記憶が残っているから、今この仕事をしています。

なるべく多くの子どもたちに『この映画をこの映画館で観た』という場所の記憶を残せるようなことをしたい。もちろん大人のお客様も大事ですが、同時に子どもたちにも『映画館って面白かった』と思ってもらえることを、来年以降も増やしていきたいですね」

現在では、全国各地のみならず海外からも観客が訪れるようになったサンサン劇場。その根底にある姿勢は、「お客さんファースト」の一言に尽きる。どんな時でも全力で来場者に楽しんでもらうために、戸村さん自身が仮装をしたり、盛り上げ役としてスクリーンの前に立ったりもする。

「映画を観るだけが映画館ではない」サンサン劇場は、そんなメッセージを体現している場所だ。

マーガレット安井(まーがれっとやすい)
フリーライター
大阪府出身のフリーライター。関西圏のインディペンデントカルチャー(インディーズバンド、ライブハウス、レコードショップ、ミニシアターなど)を中心に、現場の雰囲気やアーティストの背景、地域の文化的なつながりを文章として紡ぐ。過去にはAll About、Real Sound、Skream!、Lmaga.jp、Meets Regionalなどに寄稿。
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