普通の映画館と同じでは歯が立たない

苦渋の決断を重ねながらも、なんとか運営を続けていたサンサン劇場。しかし戸村さんの中には希望もあったと語る。

「西脇大劇で働いていた時、よく来てくださっていた50代くらいの女性の方が、閉館の1週間前に映画を観に来られて。帰り際に『今日は人生の最後の映画館です』とおっしゃったんです。

『映画館は他にもありますし、また劇場で観てください』とお伝えしたら、『都会の人はそう言うけど、田舎で車に乗って1時間かけて映画を観に行くのは家のこともあるしなかなか難しい。今日は面白かった』と言って帰られたんです。その言葉がずっと残っていて、映画への興味は皆さんが持っているけど、劇場まで足を運ぶきっかけ理由がいるんだと」

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そこからサンサン劇場では、運営面の改善に取り組み始めた。普通の映画館と同じ業態では歯が立たないと考えた戸村さんたちは、準新作や旧作をメインに上映する「セカンド上映」をスタート。SNSでの口コミも相まって、劇場内の雰囲気は少しずつ変わっていった。

次の一手を模索していたちょうどその頃、サンサン劇場を大きく変える出来事が起こる。特撮映画『電人ザボーガー』(2011年)の上映である。

「この映画館でしかできない体験」で戦う

同作は、1974年から約1年間放送された特撮ヒーロー番組のリメイク作品で、全国の映画館でも上映された。しかし、サンサン劇場での上映形態は少し特殊だった。

「本来、デジタル(あるいはBlu-ray)上映しかなかったんですが、たまたま試写用の35mmフィルムがあるということで、『よかったら』とお話をいただき実現しました。それをTwitter(現・X)に投稿したら、全国からお客さんが駆けつけてくれたんです」

2010年頃、シネコンにはデジタルシネマ機器が普及し、フィルム上映ができる映画館は全国でも限られていた。『電人ザボーガー』の35mm上映は、その希少性ゆえ注目を集め、劇場には「新大阪からは近いですか?」「周辺にホテルはありますか?」といった問い合わせの電話が次々とかかってきたという。この異常事態ともいえる状況のなかで、戸村さんは一つの結論に至った。