そんな考えのもと、戸村さんは緊急事態宣言明けに新潟・長岡花火大会を上映することを思いつく。

「映画館の常識」を次々と覆す

「私は自宅が天神橋筋辺りで、7月になると天神祭一色になるのですが、その年は何もなくて。そんな時に、ニュースで『今年のために作った子どもの浴衣を着る機会がなくて残念』という親子を見て、『今は映画じゃない。花火だ』と思ったんです。

映画館だからといって映画にこだわる必要はない。人々が花火を求めているなら花火をやればいい。大きなスクリーンと音響、感染対策をした空調の効いた室内で花火を楽しめるようにし、素材を提供してくれる会社の協力で実現しました。浴衣姿の来場者も多く、とても喜んでもらえました」

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そのような取り組みを経て、サンサン劇場にまた新しい名物が生まれた。『RRR』である。英国植民地時代の激動のインドを舞台に、2人の男の友情と使命がぶつかり合う様を豪快に描いたアクションエンタテインメントだ。単館映画館としては驚異的な約1年9カ月のロングラン上映を記録した。

「この作品をいつまで上映しようかとなった時に、『塚口へ行けば、いつでもこの映画が観られる』という状況を作ってみようと考えました。動員だけ見れば採算割れする時期ももちろんあります。でも続けていると『やっているのは塚口だ』という事実が一人歩きしていく。そこに他のインド映画もくっつけていけば、塚口ならではの興行収入の道も開ける。半分実験的にやってみたんですが、観客がゼロの日は一度もありませんでした」

すっかりサンサン劇場の代名詞となった「マサラ上映」と組み合わせれば、チケット販売開始からわずか1分で完売するほどの人気ぶりだった。現在も同館では、マサラ上映を月に1〜3回、年間で約20回開催しており、満員となることも少なくないという。かつては観客ゼロで、静かに映像だけが流れていた小さな劇場は、紙吹雪と歓声が交わるマサラ上映の「聖地」となった。