「自分の好きなこと・興味のあることのためなら、能動的に動く人はたくさんいると感じて。35mmはデジタルと比べると画質だけ見れば劣りますが、色味や質感も含めておもしろいと感じる人たちはいる。それに新幹線の切符を取り、ホテルを押さえ、映画を観て、帰って家族や友人に『こんなん観てきた』と話す。この映画館でしかできない体験も含めて全体をパッケージにすれば、うちはシネコンと戦える。そう思いました」
「この映画館でしかできない体験」を考えた戸村さんは、この頃から「SNS映え」を軸にした運営戦略を打ち出していく。たとえば『電人ザボーガー』の公開時には顔出しパネルを設置し、来場者に写真を撮ってもらい、SNSに投稿してもらい、拡散されることを狙った。映画を楽しむだけでなく、付加価値をどう加えるか。その答えのひとつを見出したサンサン劇場は2013年に、現在でも人気を集める「マサラ上映」を開始することになる。
「マサラ上映」が代名詞に
ある日、同館のスタッフが他館で開催された『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』のマサラ上映を鑑賞。観客が映画に合わせて踊り、クラッカーを鳴らし、紙吹雪をまく。「映画は静かに見るもの」という固定観念を覆す、まったく新しい鑑賞スタイルに強く魅了されたスタッフは「自分たちの劇場でもやってみたい」と提案。議論を重ねたうえで、サンサン劇場では2013年6月1日に初めてマサラ上映を実施した。当時のことを戸村さんは次のように振り返る。
「関西では以前から、有志の方々が不定期でインド映画のイベントをされていて、その方たちがいろいろ協力してくれたんです。当初は、見ず知らずの人たちと本当に一緒に盛り上がれるだろうか、日本人的な奥ゆかしさが邪魔しないだろうか、と不安もあったんですが、全然そんなことはなくて。始まった瞬間にクラッカーが鳴って『これはいける』と感じ、映画の途中で『これは続けよう』と思いました」