中長期的な日中関係のパイプが消滅

 往年に親中派と呼ばれた政治家や財界人のような立場は、近頃はずっと評判が悪い。筆者もそういう立場にあまり好感は持っていないのだが、まったく存在しないのも別の問題が生じる。……つまり、村をおびやかす山賊と言葉の通じない村人が話をする際に「なかば山賊の回し者でも山賊幹部と直談判ができる村人」が必要なケースがある、と書けば伝わるだろうか?

 近年、日中間で公的な外交ルート以外の水面下のパイプがすくなすぎることは、専門家の間でもしばしば指摘されている。現在、自民党や立憲民主党など主要な政党のなかで、中国側と太いパイプを持つ現役の政治家は多くない。もともと、日中間のエリートの非公式的なパイプは2000年代以降すでに細って久しいが、今回の件で決定的な打撃を受ける可能性が高い。

親中派だった二階俊博氏は引退 ©文藝春秋

 今後、日中交流系のイベントなどが中国側から長期にわたり断ち切られることで、日本の政財界における対中パイプはいっそう細ると思われる。中国側の人員としても、現在の政治状況のもとでは日本とパイプを持つこと自体が政治的忠誠を疑われかねず、積極的に関与する動機が薄い。

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 結果、たとえば2010年の尖閣沖中国漁船衝突問題のような突発的な緊急事態が日中間で発生した場合に、両国は公的チャンネルで殴り合う以外で、双方の意思疎通や利害調整の場を持てなくなる。日中双方ともに、相手に対する姿勢が特定の政治家のイキリや官僚の忖度、世論の近視眼的な強硬論などに引きずられるおそれも高まる。今後数十年くらいの長期的スパンで見ても、日中関係の先行きは決して明るいものにはならないと思われる。

「ネトウヨ大喜び」の先に起きること

 以上、「限日令」の影響予測を見てきた。正直、Yahoo!ニュースのコメント欄あたりでクダを巻いている人たちが喜びそうな話も多いのだが、さておき予測は予測である。

 ちなみに、日本で中国人の姿が以前よりも目立たなくなると、岩盤保守系日本人を“養分”にする排外主義レイジべイト(炎上商売)の世界でも、中国人叩きが一定程度はおとなしくなる可能性が高い。「中国人観光客が奈良公園で鹿を虐待している」みたいなデマの説得力がなくなるためだ。

 結果として、日本のレイジべイト業界もビジネスモデルを転換する可能性がある。従来の反中系デマに代わり、反イスラム系のデマが増えるといった変化は予想できる。もともと仲が悪い中国とは違って、パキスタンやインドネシアなどの諸国は従来の対日感情が悪くないため、レイジべイトの方向転換が思わぬ国際摩擦や地域社会の混乱を生む例も増えるかもしれない。

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