公営斎場が少ない東京の火葬料金は、全国で断トツに高い9万円
たとえば、これは拙著『葬式格差』(幻冬舎新書)でも取り上げたことだが、東京都における火葬料金は断トツに高い。それは、都内の主な火葬場を民間の業者が運営しているからだ。今やもっとも安い「普通炉」で9万円である。「特別殯館」になると16万円もする。もちろん、火葬の仕方に違いがあるわけではない。骨上げする部屋が豪華になり、立派な霊柩者が無料で使えたりするのだ。
東京にも公営の火葬場がないわけではない。だが、数は少ないし、料金は民間の業者と変わらないものになっている。他の道府県だと、火葬場は基本公営で、料金は1万円から2万円である。地域の住民なら無料というところもある。
こうしたことは問題にはなってきたが、東京都も政治家も、その解決に熱心には取り組んでこなかった。東京都民が、自分たちのところだけ火葬料金が高いという事実を知らないことも、放置されてきた原因になっている。
9万円が、その人物の人間としての重みを示しているわけではない。しかも、人を葬るときには、それだけでは終わらない。葬式の費用はまったく別である。その点では、9万円という額は相当に高い。23区在住なら「区民葬」という選択肢もあるが、証明書が必要で、普通炉より安いといっても5万9600円である。ただ、東京で火葬場を運営する民間の東京博善では2026年3月末をもって区民葬の取り扱いを終了する。その分、普通炉の火葬料金は3000円下がる。
本文中でもふれたが、遺骨を墓に納めるにあたって、遺骨に対する信仰心が先行するわけではない。火葬が普及して遺骨を引き取らなければならなくなったことで、遺骨は神聖視されるようになった。土葬の時代には、遺骨はほとんど顧みられず、その場所に墓参りすることもなかったのだから、火葬が人々の意識を決定的に変えたことになる。