令和2年、東京。実直な銀行幹部として評価されてきた56歳の男が、32歳年下の女性部下の自宅に侵入した。信頼関係を利用し、待ち伏せ、脅迫へと踏み込んだ犯行は、下着姿にさせるだけでは終わらない。

 エリートの仮面の裏で膨張した欲望は、どこで一線を越えたのか……。その手口と転落の始まりを追う。なおプライバシー保護のため、登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©getty

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部下のマンションに侵入した上司

 長島幹一(当時56)は大学卒業後、ひたすら実直に生きてきた銀行幹部。糟糠の妻との間には24歳の長男と22歳の長女がいた。

 事件の被害者となる平石歩美さん(同24)は同じ職場の部下だった。歩美さんは長島を職場の上司として信頼し、プライベートなことを何でも話していた。

 歩美さんが住んでいるマンションのことも聞いた長島は、つい興味本位でそのマンションを訪れた。

 歩美さんが「5階の角部屋に住んでいる」と言っていたので、部屋番号は505ではないかと推測し、それを確かめるため、エントランス内に侵入し、郵便ポストを覗いた。

 すると、そこにカギが入っていたのだ。しかもキーホルダーが付いていて、そこには彼女の名前と同じイニシャルが彫られていた。

「間違いない。これは彼女の部屋のカギだ」

 長島はそのカギを衝動的にポケットにしまった。そのときの長島に、よこしまな考えがあったわけではない。だが、そのカギのために様々な妄想を掻き立てられることになり、しまいには取り返しのつかない事件を起こすことになるのである。

 一方、カギが無くなったことに気付いた歩美さんは、防犯のためにすぐにカギを付け替えた。まさか長島に奪われたとは思わず、その後も職場でプライベートな話をして、不在にする予定の日をたまたま口にした。

 それを聞いた長島は「彼女の部屋に侵入する千載一遇のチャンスだ」と思い、その日に合わせて玄関先まで行ってみた。

 ところが、カギは付け替えられていた。もしかしたら新しいカギが郵便ポストの中に入っているのではないかと思い、確認に行ったが、今度はダイヤル錠がかけられていて開かなかった。

 いったん車で離れたが、あきらめきれずにもう一度玄関先まで戻ってカギを差し込んでみたが、やはり開かなかった。

「ちくしょう……、部屋の中に入りたい。できれば、小型カメラを仕込んで、彼女の私生活を見てみたい」