ちなみに彼らは意外と国際政治に敏感で「チョーンピ、アヨッポ」だけでなく「プーチン、アヨッポ」も常套句だ。

「トランプは悪い」「プーチン(ロシア大統領)は悪い」という発言は、それだけ聞くととても幼い印象をうけるが、それは3歳児レベルの言葉しか話せない私に合わせた言葉遣いをしてくれているからで、彼ら同士では(きっと)より複雑で込み入った意見をかわしているものと思われる。

トランプになぜ怒るのか

 2014年から毎年シオラパルクを拠点に探検活動をつづける私は、現在、14頭の犬を現地で飼育しており、1年のうち5カ月にわたり妻子とわかれて当地で暮らしている。日本との2拠点生活といっていい。

ADVERTISEMENT

角幡唯介氏 Ⓒ文藝春秋

 イヌイット語は語尾変化が複雑で、40過ぎの頭ではなかなか習得にいたらない(努力を放棄した言い訳だが)。ただ会話は3歳児レベルでも、10年以上、彼らのかたわらで日々を過ごしてきたことで、私には彼らの怒りの背景がなんとなくわかる気がする。

 現地に在住するわずかな人をのぞき、現存する日本人として、おそらく私はもっともグリーンランドの人と肌で接している者のひとりだろう。いつの間にやらそういう立場にたった責任もあるので、彼らの生き方という観点から、その怒りの背景をここで代弁してみたい。

3日間のセイウチ狩り(筆者提供)

 彼らはなぜ怒るのか? それは先祖代々生きてきた歴史と物語がその土地にしみついているからである。その土地をカネで買えるという発想、すなわち経済合理性こそが世界の唯一の価値基準であり、それは地球の隅々まで適用されうるという資本主義思想の傲慢さに腸(はらわた)が煮えくり返っているのである。

※本記事の全文(約5000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(角幡唯介「特別エッセイ グリーンランドの怒れる男たち」)。全文では、3日間続けられたセイウチ狩りや、米軍がつくった空軍基地などについて触れられています。

※お申し込み画面で年額プランをお選びいただき、プロモーションコード「NHRG9MBPM6」をご入力ください。
※2年目から通常価格の10,800円(税込)で自動更新となります。

次のページ 写真ページはこちら